加入当初の戸惑い。フロンターレ独特のサッカー
28歳になるシーズンでのチャレンジはしかし、最初から順風満帆だったわけではなかった。フロンターレの独特のサッカーに戸惑った。大黒柱の中村の目には、「ちょっと自信がなさそうだった」と映っていた。
たとえば、他のチームとは一線を画す「フリー」の定義。パスの受け手が相手選手にマークされていても、出し手との間で「ボールを出せる」という意思が疎通すれば、フロンターレでは「フリー」となる。
パスを出して動く。動いてボールを受けて、また動く。基本的かつ高度なプレーを繰り返しながら、絶えず数的優位の状況を作り出すスタイルに、阿部は開幕から2ヶ月ほどで順応していった。中村が目を細める。
「自分が馴染むというか生きるために、周りの選手にどうしてほしいか、自分がどうしたらいいかをコミュニケートできる能力がすごく高い。そのうえで、話したことを実践できるのでどんどん成功体験が増えていくし、自信をもってやれるようにもなる。その意味では、阿部ちゃんがいると楽ですよ。
もともと技術もあるし、賢いし、動きながらサッカーができるし、守備もできる。以前は『ここで欲しいな』と思ったときに横や後ろへパスを出していたけど、いまではちゃんと前へ入れられる。阿部ちゃんがボールをもつと僕たちも動くようになったし、そうなるともう止まらないですよね」
中村が言及した成功体験を、阿部が初めて得たのは5月5日。3得点すべてに絡んだアルビレックス新潟戦だったが、心のなかでガッツポーズを作った場面は自身が決めた後半30分の3点目ではなかった。
後半開始早々に、MF長谷川竜也が左タッチライン際をドリブルで攻め上がった。アイコンタクトを成立させた阿部はファーサイドから中央へポジションを移し、4人を引きつけた長谷川からパスを引き出す。
このとき、パスコースを横切るように、オフサイドにならない絶妙のタイミングで小林が縦に走り出していた。ワンタッチのパスを小林がゴールに流し込んだ瞬間に、阿部は「これだ!」と全身に快感を覚えた。
「(小林)悠君は常にいい動き出しをするので、練習のときから見るようにしている。あの場面でも合わせるだけというか、悠君の特徴を殺さないようなパスを出すだけでした」