島に流れ着いた日本人は崇拝の対象に
この島のサッカーを愛する者たちとガクとの蜜月の始まりだった。流れるような素早い動きで、常にワンタッチかせいぜいツータッチでボールを捌くプレーや、誰よりも速くゲームを見定めるため最適な位置取りをするその力により、不動のレギュラーの座を手にした。だがチームは、最後の目標にあと一歩及ばなかった。
その道のりの中には、特に目を引く働きがいくつかあった。アルコルコンでの試合も特筆に値するものだ。ボールを触り、プレーに絡み、マークを外してゴールを決める。柴崎の頭にはそういう考えがあったに違いない。簡単なように見えるがそうではない。
彼の最高のプレーが引き出される場所であるラインとラインの間で奮闘し、昇格を目指し続けてきたが、結局手が届くことはなかった。プレーオフの舞台でもガクはキープレーヤーとなり、ホームの観客の前での最初で最後のゴールも記録した。テネリフェを決勝へ導くゴールだった。だが、それでも届かなかった。
加入当初のようなメディアの喧騒や、周囲からの注目や、彼に苛立ちと不安をもたらしていた何千人ものファンからの視線が、突然のように称賛を込めた形で戻ってきた。まるでレオ・メッシであるかのように、テネリフェの人々は彼らのスター選手である日本人に「黄金のボール」を贈ることを要求していた。
この島に流れ着いた日本人が崇拝の対象となったことを確信しつつ、大勢のファンが愛情を込めた讃歌を歌い、彼にサインをねだるようになった。あと一歩で昇格を逃して1週間を経た今、この島は、プリメーラで戦うことを望みその力を持つサッカー選手との離別を惜しんでいる。彼はその道筋となった楽園に足跡を残して去っていく。
(取材・文:ラモン・エルナンデス【テネリフェ/マルカ】、翻訳:フットボールチャンネル編集部、協力:江間慎一郎)
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