育成年代、10年以上の時間で生まれる土台の差
もともとサッカー的なセンスと知性を備えていた乾はスペインに渡ってから飛躍的に戦術理解度を高めているが、スペインの選手たちはジュニア年代から優秀な指導者の下で細かなポジショニングや駆け引きを覚え、それを試合で実行してトライ&エラーを積み重ねている。
育成年代でそれを10年以上積み重ねた選手が戦術メモリーという土台を持ってプロの世界に飛び込むことが当たり前の欧州と、育成年代での細かな戦術指導が抜けた日本で選手育成において大きな差がつくことは当たり前なのだ。
インテンシティーというテーマ一つとっても、指導者が単に「インテンシティー」、「デュエル」を叫び、プレー強度を上げようとしても肉体を司る頭脳がなければ実現できない。日本の育成年代の試合で指導者がよく発する「球際」、「(プレスに)行け」といった言葉を受け、選手たちは忠実にハイプレッシャーを実行している。
しかしながら、戦術という具体性がなく、個人の感覚任せで無鉄砲に突っ込んでいくプレスに終わっているため、結果的には簡単にパスやドリブルではがされるような現象が育成年代における仕上げのカテゴリーである高校、大学のトップレベルでも散見される。
出発点として指導者がインテンシティー、デュエルを強調することが重要ではあるのだが、それと同時に、同じ重要度を持って「高い強度で知的に相手からボールを奪う守備戦術」を指導者がしっかり選手に教えなければいけない。
UEFAのコンペティション(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)でスペインのクラブがここ数年いい結果を残していることからも明らかなように、欧州の中でもスペインは戦術レベルの高い国、リーグで特に育成年代におけるインテンシティーの高さと戦術指導の緻密さは群を抜くレベルだ。
スペインのラ・リーガで最も活躍した日本人選手としてそうしたレベルの高さを日々体感する乾の言葉だからこそ、もう少し重く、深く受け止める必要があるのではないか。
〈取材・文:小澤一郎〉
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