宇佐美がバトンを託す後輩として名を挙げた2人
堂安が感謝していたと聞かされると、「何かお返しが来ればいいんじゃないかな」と無邪気に笑いながら、餞別の言葉を投げかけることも忘れなかった。
「僕が言うのもあれですけど、向こうでしっかり頑張って結果を残して、いいように言えば、もうガンバに帰ってこないようになれば一番いいんじゃないかと思います。僕もしっかり結果を残し続けて、いつかはA代表で一緒にプレーできればベストだと思います」
これが永遠の別れではない。お互いに進んでいく道で自身と周囲を納得させらせるパフォーマンスを演じ続ければ、おのずと再会できる。もちろん、それがA代表の舞台だけとは限らない。
フロンターレ戦に続いて行われた堂安の退団セレモニー。涙ひとつない笑顔のスピーチと万雷の拍手を浴びながらの場内一周を見届け、自身を含めたチームメイトたちによる胴上げで3度宙を舞わせた。
振り返ってみればちょうど1年前も、FW宇佐美貴史を市立吹田サッカースタジアムのピッチからアウグスブルクへ送り出した。宇佐美は後に、バトンを託す後輩として井手口と堂安の名前を挙げている。
それはガンバを支えるという意味だけではない。ガンバの生え抜きという看板を背負って、ヨーロッパの舞台でいつかは勝負する。ヨーロッパのピッチで再会できれば、否が応でも闘志が高まってくる。
「サッカー選手である以上は、やっぱり海外というのは一番の目標でもあるので。先に後輩に行かれたというのはあれですけど、しっかり僕も追いつけるように頑張りたい」
自他ともに認めるシャイな性格で、人見知りも激しい井手口がいつになく饒舌だった夜。その理由は可愛い後輩・堂安を介して、進むべき道があらためて、そして鮮明に見えたからだろうか。
そして、勝って堂安を送り出したいという特別なモチベーションも加わった、鬼気迫るパフォーマンスはヨーロッパでプレーする猛者たちをも沈黙させるレベルに十分に達していた。
(取材・文:藤江直人)
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