「正直、こんなに応援してもらっているとは思っていなかった」
それでも世界中の同世代が集う舞台で、自らの立ち位置を確認できた。決して劣ってはいないが、本当の意味での勝負は20歳前後から幕を開ける。最後はアスリートの本能と呼ぶべき、成長を貪欲に追い求める思いが上回った。旅立ちの挨拶で、堂安はこうも語っている。
「このタイミングで行くのは、本当に申し訳ないと思っています。そのなかでも僕の気持ちを理解してくれて、後押ししてくれたクラブ関係者やコーチングスタッフに感謝しています」
19歳のときの宇佐美は、バイエルン・ミュンヘンの厚い選手層の前でもがき苦しんだ。しかしフローニンゲンは戦力として堂安を評価し、熱いラブコールを送ってくれた。昨シーズンが8位という順位を見ても出場機会を得られ、結果を残すことでさらにステップアップを望める可能性を秘めた移籍と言っていい。
退団セレモニーに続いて行われた場内一周と、チームメイトたちによる3度の胴上げを終えても、堂安は努めて笑顔を見せていた。肩にかけたガンバカラーのタオルで何度も顔を覆い、思いの丈を伝えながら号泣した1年前の宇佐美とは対照的だった。
「自分はまだガンバにタイトルをもたらすことができてなくて、大半の方はまだまだ僕のことを認めてはいないと思います。ただ1年後、あいつは行ってよかったよねと思われるくらい、しっかりと活躍できるように頑張ってきたいと思います」
挨拶ではこうも語っていた堂安は、直後に抱いていた思いをひっくり返される。すべてを終えた取材エリアで、こんな言葉を残している。
「場内を回っているときに、いろいろな声をかけてもらった。正直、こんなに応援してもらっているとは思っていなかった。だからこそ、中途半端な結果じゃいけないと思いました」
だからこそ、笑って別れを告げる。心は震えたかもしれないが必死に涙腺を締めて、感謝の思いを成長へのパワーに変えた。オランダの地から2020年の東京五輪の日本代表、さらにはA代表入りへのスタートを切る堂安は28日に離日。メディカルチェックをへて、7月1日予定のフローニンゲンの始動に備える。
(取材・文:藤江直人)
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