「格上」相手でも普段通りのスタイルで
挑戦者はカテゴリーの差に怖気づくことなく真っ向勝負を挑み、一方のJ1クラブは主力を次々に投入。なりふり構わず“格下”をねじ伏せようとした。
第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会2回戦、Honda FCはジュビロ磐田との一戦に臨んでいる。
雨上がりのヤマハスタジアムで、JFL王者は観る者を魅了した。1本のパスに明確なメッセージを込め、相手の逆を取りながら、描いた絵の通りにゴールへ迫る。2度のビハインドを追いつき、J1で大物食いを続ける磐田を慌てさせた。特に延長後半終了直前に生まれた2点目は、それまで119分間戦い抜いたとは思えないほど流麗だった。
CBの鈴木雄也が縦パスを入れ、途中出場の土屋貴啓がヒールで落とす。リターンを受けた鈴木が相手ともつれながらボールを残すと、松本和樹の鋭いパスを富田湧也がトラップからシュート。ポストに当たってこぼれたボールを高卒1年目の遠野大弥が押し込んだ。
懸命に守ろうとする相手をことごとく掻い潜り、フィニッシュへと繋げたのだった。
最終的に8人目までもつれ込んだPK戦の末に敗れ、ジャイアントキリングとはならなかったが、その戦いぶりは敗者のそれではなかった。
しかし試合後、“格上”を土俵際まで追い詰めた満足感など選手たちは微塵も見せなかった。
「結局、負けたら相手の方が上ということ。そこに関しては負けたら何も言えない」
キャプテン就任4年目の鈴木雄也が言えば、変幻自在の攻撃を先導した栗本広輝も、「悔しさしかない。勝ちに来ているので」と声を搾り出した。
本気で勝利を目指していたからこその失望感が、ミックスゾーンに広がっていた。しかし、称えられるべきチームである。アマチュアがプロと渡り合ったのはもちろんだが、理由はそれだけではない。
格上と対戦する時、『粘り強さ』や『諦めない心』がクローズアップされがちだ。確かに、そうした要素が欠けてしまえば何も起こすことはできないだろう。Honda FCもチャレンジャーとして最後まで試合を捨てなかったが、披露したのは普段着のスタイルだった。相手がJ1クラブだからといって『いつもより守備的に』などと余所行きのサッカーをする選択肢は、ハナから頭の片隅にもなかった。
アマチュア最強クラブの矜持を、彼らはピッチで表現した。