停滞感を一掃した圧巻のドリブル突破
ボールをもつだけで心を躍らされる。次は何をしてくれるのかと、背番号11の一挙手一投足に視線が釘づけになる。シリア代表を東京スタジアムに迎えた、7日のキリンチャレンジカップ2017。約2年2ヶ月ぶりに戻ってきた日本代表戦のピッチで、FW乾貴士(エイバル)が魅せた。
MF今野泰幸のゴールで1‐1に追いついた直後の後半13分に、FW原口元気(ヘルタ・ベルリン)との交代で投入された。まずは名刺代わりのドリブルで、4万3608人の大観衆のハートを虜にした。
センターサークル内の自陣でこぼれ球を拾うと、素早くターンして前を向く。力強さと軽やかさが融合された約40メートルの中央突破が、それまでハリルジャパンに巣食っていた停滞感を一掃する。
これでペースをつかんだのか。相手が間合いを詰めればドリブルで抜け出し、様子を見てくればパスを駆使して味方と絡む。シリア代表が慌ててマーク役を投入するほど、左サイドは乾の独壇場になった。
右のインサイドハーフに回った本田圭佑(ACミラン)が繰り出した、サイドチェンジのパスを華麗にトラップ。次の瞬間、マーク役をワンタッチでかわして敵陣に迫ったプレーには思わずため息が漏れた。
「相手も疲れている時間帯に入りましたし、誰が出ても多分同じような感じになっていたと思いますけど。僕自身は緊張感も特になかった。自由に楽しくやろうと思っていましたし、実際に楽しくできたので」
ヨーロッパ組だけを対象にして、先月28日から千葉県内で行われてきた日本代表合宿に参加していたときから、乾は「楽しむ」を何度も口にしていた。代表復帰に至ったいま現在の乾を物語るキーワードを、プレーを通してほぼ完璧に具現化できたのはなぜなのか。
試合後の取材エリアで残した言葉を紐解いていくと、最終的には3つの理由に集約されていく。まずは懐かしい顔が、東京スタジアムのピッチで待っていてくれたことだ。
「シュウ(倉田秋)と一緒にプレーするのは、セレッソのとき以来だったので。それに関しては、すごく嬉しかったですね」