「バルサから点を取っても…」。乾が見せる謙虚さの背景
そもそも日本代表の左サイドはハリルホジッチ体制になってから最も流動的だったポジションのひとつ。本田圭佑(ミラン)が長きにわたって君臨した右サイドとは対照的に、左は宇佐美貴史(アウグスブルク)や武藤嘉紀(マインツ)、清武弘嗣(C大阪)、浅野、原口ら入がれ替わるように試されてきた。
原口が定位置をつかんだのも、昨年9月の2018年ロシアW杯アジア最終予選・タイ戦(バンコク)以降。それも背番号8が持ち前のハードワークとダイナミックなランニングを全身で体現したうえ、4試合連続ゴールという頭抜けた決定力を発揮したことが大きかった。
そのライバルに挑む乾も、5月21日のバルセロナ戦で2ゴールを叩き出した。カンプ・ノウで2発を奪った日本人選手は歴史上彼ただ1人。その実績はやはり偉大だ。
「(バルセロナ戦と同じような得点を)みんなが期待してるのは分かってます。ただ、勘違いしてもらいたくないのは、バルセロナから点を取ったからといって、他のチームから取れるわけではないということ。それまでの自分はシーズンで1点しか取れていなかったし、絶対(に得点できる)ということはないです」と彼自身に驕りは一切ない。
慎重さと謙虚さの背景には、岡田武史監督(現FC今治オーナー)時代から4人の監督の下で断続的にプレーする機会を与えられながら、日本代表に定着できなかった過去がある。10代の頃から卓越したテクニックと創造性を高く評価されながら、代表でコンスタントにプレーできなかったのは、メンタル面を含めた好不調の波が大きすぎたから。環境が変わるたびにフラストレーションを感じ、それが必ずと言っていいほどピッチ上のパフォーマンスに影響してしまっていた。
ドイツ時代もボーフムでは周囲を納得させる活躍を見せていたが、フランクフルト時代は「ストレスを感じながらやっていた」と本人も認める通り、不完全燃焼を強く感じる日々を過ごした。しかしながら、2015年夏に赴いたエイバルでは「スペインの中でも珍しいほどファミリー感のあるチームで本当に楽しめている」と満足感を味わいながらプレーできている。