自身の価値を高め、さらなるステップアップへ
這い上がっていく過程で、大切なことを見つけた。異国の地において一人でサッカーをするなかで、自分が「加藤恒平」でいられるための、必要不可欠な思考回路と表現してもいいのかもしれない。
「国が違えばその国の独特のサッカーがありますし、住んでいる人々のキャラクターも違いますし、食事もすべて違う。そのなかで自分がどういられるかというのが大切で、自分をもっていないとすぐに挫折してしまう。人間としての成長を、海外でサッカーをやることによって果たせたのかなと。
ぶれないというより、あまり人に興味がないというか。悪い意味でとらえられるとちょっとあれなんですけど、あまり人がやっていることを気にしないというか、自分がどうありたいかというのを自分のなかではすごく大切にしていて、そうじゃないと、いろいろな国に行っていないと思うので」
そうした考え方は、抜擢されたハリルジャパンのなかでも力強く脈打っている。ドイツやイングランドなどで活躍するチームメイトたちの立ち居振る舞いを見て、再確認させられたと言っていい。
「自分をしっかりもっている選手が、この場所には集まってくる。その意味ではヨーロッパの厳しい環境で4年間やってきて、あらためてよかったと思います」
もっとも、ここがゴールじゃない。むしろ、さらに大きな夢へのスタート。電話で感謝の思いを伝えた唐井氏からも、抱いている野心をずばりと指摘された。
「喜んでくれましたけど、唐井さんも僕の性格を知っているので。ここで多分満足しないだろう、と言われましたし、試合に出られるように頑張れと激励されました。代表に入ったからといって、急に上手くなるわけではない。いままで通り、自分がやってきたことをピッチで出せるようにしたい」
ベロエとの契約はまだ1年残っているが、いいオファーがあればそれを優先してもいいと温かい言葉をかけられてもいる。現在、代理人がさらにステップアップできる環境を探している。
その過程で迎える日本代表戦でピッチに立てば、さらに自分自身の価値を高めることができる。イラク戦の翌日に28歳になる苦労人にとって、緊張と興奮を交錯させているハリルジャパンでの日々は、将来をかけたチャレンジの舞台でもある。
(取材・文:藤江直人)
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