「J1で優勝することが恩返しだと思う」
プロサッカー選手である以上は、誰もが日の丸を背負って戦うことや、テレビの向こう側の世界だったヨーロッパの舞台でプレーすることに憧憬の念を抱く。米本が口にした「夢」も、まさに代表入りや海外移籍にほかならない。
「代表や海外というのを目標にしてやっていましたけど、いまは本当にけがをしないこと、あるいは目の前の試合に自分が出るためにはどうするとかを考えています。先を見るのではなく、目の前にあることをしっかりやるのが大事なんだと」
決して夢をあきらめたわけでも、捨て去ったわけでもない。小さな目標をひとつずつ、確実に乗り越えていった先に新たな視界が開けると信じてリハビリに取り組み続け、コツコツとプレー時間を増やし続けた。努力の結晶はいま、篠田監督を十分に満足させるレベルに達している。
「ボールへのアプローチとボールを奪う技術、そして運動量。今日の彼のパフォーマンスは本当に素晴らしかったし、J3やルヴァンカップを小刻みに戦いながら、ようやく本番に、J1の舞台で90分間できる状態で帰ってきたかなと」
後半39分からは、それまでの4バックを3バックにスイッチ。米本をボランチからアンカーに配置転換して、前方に2人のインサイドハーフを置く布陣でレイソルを完封。31日の清水エスパルスとのグループリーグ最終戦で引き分け以上ならば、決勝トーナメント進出を決められる状況となった。
ゲームキャプテンを務めたDF吉本一謙によれば、アンカーを置く布陣は「チームでいま、トライしている形」という。守備に長けた米本の復活を待っていたかにのように、終盤にリードを奪ったまま逃げ切るためのオプションもFC東京に備わろうとしている。
「やっぱりJ3よりもギアが1つも2つも上がっていたけど、それでも今日は篠田監督を迷わすようなプレーをしたかった。ここから僕がポジション争いに食い込んでいければ、チームの底上げにもなるので。J1で優勝することが恩返しだと思うので、何ななんでも、という感じで貢献していいきたい」
90分間における一番の収穫を問われると、迷うことなく「けがなく終われたこと。僕にとってはそうなりますね」と答えた。対戦相手から「怪物」と畏怖されたJリーグ屈指のボールハンターはゆっくりと、そして確実にトップフォームを取り戻している。
(取材・文:藤江直人)
【了】