リーグ創設の20年前から行われていたFAカップ。近年は価値が薄れ…
近年「FAカップ」の“旗色”が薄れかけている。この、史上最古のフットボールトーナメント、いや、史上初のリーグ戦(現在のプレミアリーグに当たるイングリッシュリーグ:1888年創設)創設よりも20年近く前に始まったのだから「最古のフットボールイベント」と呼ぶべき誉れ高い大会に、かつて筆者が文字通り度肝を抜かれた体験のイメージほどの「価値」が置かれなくなってしまっている。正直、寂しい。
まずは筆者の「体験」、すなわちその郷愁めいた二つの記憶を振り返ろう。一つは、初めて現地で接した1970年FAカップ決勝。無敵正統派のリーズ・ユナイテッドに、カジュアルで無頼なダークホース的存在のチェルシーが挑んだ、熱闘の2試合。そう、ウェンブリーでは決着がつかず、オールド・トラッフォードに舞台を移しての再試合にもつれ込んだ、今生無比の火花飛び散る対決――そのインパクトはあまりにもデカかった。
もう一つは、その一年後、70年大会ではまだ在英して間もないエトランジェだったために気が付く由もなかった「FAカップというイベントのとてつもないサイズ」である。ゲーム前日、TVのニュース番組はFAカップ一色同然、当該両チームの地元の熱狂と興奮はもちろん、各界著名人による「どうなるこうなる」の予想と応援合戦など、手を変え品を変えのライヴエピソードがこれでもかと繰り広げられて、まさに息つく暇もなかった。
なんだこれは、と多分に当惑しつつも、今思えば、そのときから筆者はイングランド人たちの愛すべき“局所的”なこだわりと入れ込み具合にいっぺんにほだされ、かの地の暮らしに充実感と安らぎを温め、積み重ねていくことになったのだと考えている。