「ミラン本田」の縮図のようなパフォーマンス
途中から入ってくる選手に求められるのは、チームのために体を張って闘うプレーとその姿勢である。27分、ゴッドフレッド・ドンサーに体を当ててボールを奪い、それを素早く味方につないでカウンターを誘発させる。これが相手ゴール前でのファウルを呼び、本田自身のFKにつながった。
それにしてもこの日のパフォーマンスは、ある種本田がミランに所属した3年間の縮図であるような印象も受けた。移籍当初はトップ下という期待もありながら、評価をされたのがサイドハーフとして攻守両面を実直にこなすというプレーだったこと。FKからゴールは決めた一方、アシストのチャンスはありながら他にゴールを演出できなかったこと。厳しい言い方になるが、10番を背負いながらベンチに甘んじているという立場も3年半の評価そのものとも言える。
ビッグクラブの選手は結果を出すのが当たり前で、さもなくば人間とみなされない。ただそれもまた、厳粛な現実である。チームを勝たせられなかった自分自身を誰より歯がゆく思っていたのは、他ならぬ本田自身だったことだろう。いろいろと批判の対象となって叩かれたが、彼がどういう姿勢で現実に向き合い、影でどんな努力を重ねていたかは、チームメイトたちの喜び方が示していたようにも思われた。
EL予備予選出場がかかった1試合でやっと貢献できた、というのは小さい結果かもしれない。しかしミランにとって、3年ぶりのヨーロッパ進出は文字通りの再出発を意味する重要なもの。何もできずにシーズンを終えるよりははるかに良かったではないか。「ありがとうというふうに、ミランのファンに伝えておいてください」という言葉には、単に別れを告げるということ以上に、いろいろな思いが詰まっているような気がした。
(取材・文:神尾光臣【ミラノ】)
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