限られた出場機会にどんな面持ちでいるのか
人好きする快男児。行動規範は「個」で首尾一貫している。そこが清々しい。集団に属していようがいまいが、局面を切り拓けるのは「個」で動ける人間だ。ただ、「個」として強くあることは、時として「弧」になることもあるだろう。それを丹羽はチラリとも匂わせず、淡々と受け入れているように見えた。
今季、丹羽はベンチを温める日々が続いている。唯一の先発出場は第6節のサンフレッチェ広島戦のみ。このときは3バックの右に入った。5月14日、第11節の北海道コンサドーレ札幌戦、前後半1点ずつ加えたG大阪が2‐0とリード。5分と表示された後半アディショナルタイム、背番号5がタッチライン際に立つ。4分44秒、遠藤保仁と交代し、丹羽はピッチを踏んだ。5分21秒、レフェリーの笛が鳴る。1分も経たないうちに試合終了だ。ボールに触ることすらなかった。
カメラは丹羽の顔を映さない。私は、ロッカールームに引き上げ、帰り支度をする彼がどんな面持ちでいるかを想像する。さすがの丹羽も眉根を寄せて渋い顔か。いや、持ち前の特殊なメンタルの構造で消化し、まったく違う発想を持っているかもしれない。そう思わせるところがある。
「ああ、おれってこんな選手やったな。こういう楽しみ方を知ってたな。子どもの頃の感覚が甦ってくる。いまは心躍るような気持ちでサッカーができています。どうしようもなく躍っちゃってるんですよ」
祖父から「一族代々の系譜には、豊臣家の重臣だった丹羽長秀がいる。おまえはその末裔だ」と聞かされて育った丹羽。躍る心をなだめすかし、ギリリッと目一杯まで弓を引き絞っている姿が浮かぶ。
(取材・文:海江田哲朗)
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