理想と現実のはざまで。エースはゴールを追求し続ける
広島のシステムは「3‐4‐2‐1」を基本として、相手ボールのときは「5‐4‐1」に、マイボールのときには「4‐1‐5」に早変わりする。最終ラインと前線をリンクさせる「1」を務める、キャプテンのMF青山敏弘のタクトで左右に幅広く陣取った前線の5人を機能させる。
左右両方からサイド攻撃を仕掛けるときは相手ゴール前でターゲットマンになる動きが、縦パスが入るときはシャドーの2人とコンビネーションを駆使しながらスペースを作り出す動きが、それぞれワントップの工藤には求められる。
難解な役割をできるだけ早く自分のものにしようと試行錯誤しているなかで、工藤は個人的なストロングポイントを生かして何とか3ゴールをあげている。林に止められたものの、FC東京戦での一撃は密集のなかでの体の使い方やボールコントロールを含めて、ハイレベルなプレーでもあった。
もしウタカが残留していれば、前線のトライアングルでいまよりもワンランク高い攻撃力を生み出せていたかもしれない。しかし、チームの財政事情でかなわなかったいま、工藤の本当の意味での「覚醒」にサンフレッチェの浮沈もかかってくる。
「味方同士でしっかりと動いて、僕がしっかりと勝負できるところへ入っていくパターンを、最終的なイメージとしてしっかり描いていかないといけない。1回のチャンスの重みというものを、細かいところまでどのようにして追及していけるか。チーム全体で厳しくやっていきたい」
9試合におけるサンフレッチェの総得点6は、アルディージャの3に次ぐリーグワースト2位。しかし、その半分を叩き出している工藤は、すでに必要不可欠な存在になりつつある。あとはどれだけ「50番」に込めた理想に近づけるか。逆風にさらされ、葛藤を抱き、時間とも戦いながら、工藤は愚直に前へ進み続ける。
(取材・文:藤江直人)
【了】