「次はリーグ戦で」。ストーリーはようやく始まった
そうした期待は、かつて前田が背負った18番を受け継いだ小川にも向けられている。指揮官は、未来のエースを厳しくも温かい目で見守っていくつもりだ。
「航基もここまで俺らにずっと言われてきて、去年は結局、公式戦に出てもシュートを1本も打てなかった。そういう時期を過ごして、メンバー入りはしたけど使ってもらえない。負けている時や同点の時のここ一番というところで『航基、頼む!』という風にならなかった。
ただ、神戸戦で負けている状況で入った。多分本人も『やっと風向きが変わったかな』と思っただろうし、そういうメンタリティが徐々に自信に変わっていって、ルヴァン(カップ)でシュートを打てるようになった、決定的なものも出てきて、今回ゴールを決めた。一段ずつ行けばいいと思う。高原とか柳沢(敦・鹿島アントラーズコーチ)みたいに2段、5段と跳び越さなくても、見ている人は見ているから」
日本サッカー界にその名を轟かせた名手たちのような、猛烈な成長スピードではないかもしれない。だが、そうある必要もない。のんびりしている暇はないが、少しずつ自分をアップデートしていけば、高みに到達するのも夢ではないだろう。
磐田のキャプテン・大井健太郎は「まだまだだな、と思うことの方が多い」と言う。小川のシュートの上手さ、フィジカル面での成長、そしてハットトリックという成果を称えたが、絶賛するようなことはしなかった。
『満足するな』
黄金時代を築き上げた名波監督ら最強メンバーから、将来を担う若手FWへ向けられた期待感と同じ意味合いが、大井の言葉から読み取れる。そして、小川もすでに新たな飢えを感じているようだ。
「これからもっともっとゴールを決めて、ジュビロの勝利に貢献できるよう頑張りたい。次は、リーグ戦で決める」
何よりも欲しかったゴールという結果は残した。いずれは先人と同じように磐田と日本をけん引する存在となりえる。今すぐにとはいかなくても、“その時”はきっと訪れるはずだ。
小川航基はプロとしてどのような軌跡を描いていくのか。そのストーリーは、ようやく始まったのである。
(取材・文:青木務)
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