幸せなクラシコ。90年代の悲観的な見立て
「サッカーは緩慢な自殺の途上にある」
英国のワールドサッカー誌などで著名だったエリック・バッティ記者は、かつてそう言っていた。彼とは2度ほど会っていろいろなことを話したが、そのころ(1992年)のサッカーに対して、非常に悲観的な見立てをしていた。
実際、ほどなくバッティ記者が亡くなった後の世界のサッカーは、確実に衰弱へ向かっているようにみえた。
「1960年代までは技術のサッカーだった。我々がプレーした70年代はかなり変化したがそれでもまだ技術だった。今(80年代)はノー・テクニックだ」
こちらはヨハン・クライフ。主に60年代に取材活動をしていたバッティと70年代に選手としてピークだったクライフ、2人の言葉は90年代に取材を始めた自分にとっては呪いの言葉のように聞こえたものだ。
でも、サッカーはダメにならなかった。少なくとも筆者にとって、90年代の試合よりも現在のほうがずっと面白い。自分が若いころに比べて、サッカーがどんどんつまらなくなるという体験をしないですんだのは幸運だった。
確かに世界のサッカーは60年代あたりから下降線を描いていたのだろう。90年代あたりはどん底だったと思う。しかしサッカーは盛り返した。少なくとも、今回のクラシコを見る限りそう思う。
3-2は最も面白いスコアだといわれる。レアルとバルサの伝統の一戦はチャンスメークの応酬の末、リオネル・メッシのロスタイムのゴールで決着がついた。死力を尽くした選手たちの疲労を棚に上げれば、そのままいつまででも見ていられそうな試合だった。