「仮に負けていたとしても怒るつもりはありませんでした」(曹監督)
それでもピッチ上の混乱は続き、17分に同点とされる。指揮官は24分に秋野央樹をアンカーとして投入し、石原を左サイドバックに回して再び4バックに変えたが、2分後に右コーナーキックからオウンゴールを献上して逆転を許してしまう。
前述の岡本によるミドルシュートが決まったのは34分。直後の37分に決められたPKは、敵陣で石原が送った不用意な横パスがずれ、相手にカウンターを仕掛けられて一気にペナルティーエリア内に侵入され、FW古橋亨梧が送ったクロスがDF奈良輪雄太の右腕に当たったハンドで与えたものだ。
スタジアムに漂いかけた敗戦ムードを、わずか3分後に一掃したのも石原だった。左サイドを全力で駆けあがり、菊地のパスを受けてニアサイドのスペースを狙った、緩やかなクロスを上げる。抜群のタイミングで走り込んできたジネイが頭でコースを変えて、ゴール右隅に流し込んだ。
4分間が表示されたアディショナルタイムを含めて、今度は逆転への期待を抱かせながら試合は3‐3のドローで終わる。お互いのストロングポイントをぶつけ合った末の点取り合戦に、曹監督は「バタバタしちゃった部分もあったけど、面白い試合だったんじゃないかな」と笑顔で振り返る。
判断ミスとパスミスを立て続けに犯した石原に、カミナリを落とすことはない。ベルマーレは試合終了から数時間後に、監督会見の全文を公式ホームページに掲載する。石原本人が文面に目を通すことを承知の上で、PKに至った場面にひな壇でこう言及した。
「最終ラインが4枚で彼が高い位置に出ていったとき、準備のできていない選手に横パスを通すのはデンジャラスでしかない。ただ、彼はJリーグでまだ2試合目の選手で、自分のミスを脳裏に残さないといけない年でもある。試合に出場させたのは僕なので、仮に負けていたとしても怒るつもりはありませんでした」
結果に対する責任は、すべて監督である自分が背負う。だからこそ、ピッチ上におけるプレーの責任は選手たちが取れ。そこには年齢も何も関係ない――。石原個人へ向けた檄は、その実、チーム全体へ向けたメッセージでもあった。
だからこそ、指揮官をして「バタバタした」と言わしめた後半の混乱を招いた要因を、できる限り早く取り除いておく必要があった。先発させた齊藤がフル出場、杉岡が後半24分までプレーし、石原が投入されてからの12分間は18歳トリオが同時にピッチに立ったからこそ、鉄は熱いうちに打ちたかった。