そう簡単に巡ってこない世紀の番狂わせ
それでもサポーターたちは90分間応援を続けて、試合終了後もほとんどの人がスタジアム内に残り、夢を見せ続けてくれた選手たちをスタンディングオベーションで褒めたたえ、全選手がピッチを下りるまで拍手を送り続けた。
得点者のヴァーディーは試合後、「すべてを出し切った。サポーターが俺たちを90分間戦わせてくれた」と褒めたたえれば、前半45分のみの出場となった岡崎も、「さみしいけど、ホント最後はファンと同じようにすごい興奮した」と、これまでに経験したことのない異空間の体験を味わったことを明かした。
敵のDFディエゴ・ゴディンも、「ほかのチームだったら、0-1になった時点でやる気をなくしていたはずだ。しかしファンが選手たちを押し続けた。サポーターがあれだけ応援してくれるスタジアムを見ていると、嬉しくなる」と、レスターサポーターとキングパワーの虜になった様子だ。
取材を終えてレスターの中心にあるホテルに戻ると、時計は午前1時を指していた。とはいえ、その時間でもいたるところでブルーのシャツを着た人々が「チャンピオンズ・オブ・イングランド(イングランド王者)」とチャントし続け、最終的にあたりが静かになったのは午前4時ごろだった。
その一時間後。朝一の電車に乗るために街を歩いていると、嵐の後のような静けさに加え、氷点下に近い冷たい空気に、昨年からこの街で続いてきた夢が完全に終焉を迎えたことを再認識させられ、寂しさを感じた。レスターを応援する大部分の人も、世紀の大番狂わせがまたそう簡単に巡ってくるとは考えてはいないはずだ。
だが主将のウェス・モーガンや主軸のダニー・ドリンクウォーターが、「一度味わってしまったから、もっと欲しくなった」と口を揃えたように、選手たちはすでに前を向いている。
「怖いものは何もない」、ドリンクウォーターはそう付け加えた。夢物語の第3章は、すでに始まっているのかもしれない。
(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三【イングランド】)
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