あらゆる出来事がC・ロナウドのためにあったとさえ思える試合に
まさに完璧な演出だった。
C・ロナウドの3点目をアシストしたマルセロは、120分間衰えない運動量で左サイドを駆け抜け(最終盤はアセンシオに後ろを任せてFWのように振る舞ってはいたが、この際無視しても構わないだろう)、気迫あふれる守備でアリエン・ロッベンを封じた。あわや失点という場面でゴールライン上までカバーに入り、頭でチームを危機から救った。
1点目をアシストしたカゼミーロは、痛恨のPK献上こそあったものの中盤の防波堤としてピッチを縦横無尽に走り回り、ピンチの芽を確実に摘んでいた。味方が相手の侵攻を数秒遅らせたところにひょいと顔をだすブラジル人MFのプレーは心強く、常に安心感があった。
2失点して2戦合計スコアで並ばれて見る者をヒヤヒヤさせておきながら、退場者が出たことで得た有利な条件をしっかりと生かして輝く。「1点が2点の価値を持つ」優位な状況を手放したビダルの退場も、もはやC・ロナウドのためだったのではないかと思えてくるほどだ。
サンティアゴ・ベルナベウで繰り広げられた120分間の激闘は、まるで1本の作品かのような展開だった。
バイエルンがレバンドフスキのPKで先制して反撃の狼煙をあげ、C・ロナウドのゴールでその流れを一旦断ち切る。だが、その直後にオウンゴールというアクシデントで再びバイエルンに流れが傾いたかと思いきや、ビダルの退場で再び主導権はマドリーへ。そして延長戦でC・ロナウドがハットトリックを達成し、マドリーを勝利に導く。これほど起承転結がはっきりしている試合も珍しい。
50本近いシュートが放たれ、6つのゴールが生まれるなどエンターテイメントとしても極上の試合だった。1試合の中にいくつも印象的なエピソードが盛り込まれたC・ロナウドのためのストーリーは、マドリーが目指す史上初のCL連覇のための一部になっていくかもしれない。
(文:舩木渉)
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