うつに苦しんだ日々…危機を克服して成熟した守護神の怪物ぶり
いくらGKは長寿のポジションだとはいえ、これだけ長期にわたってトップの座に君臨した歩みを振り返ると、改めてその怪物ぶりに驚かされる。しかしブッフォン自身は思い悩むこともある1人の人間であり、そのためにキャリア続行の危機に瀕していたこともあった。
2008年に出版した自伝『ヌーメロ・ウーノ』の中で、自身がうつに陥っていたことを告白した。「2003年から2004年にうつになって、精神科医にかかっていた。人生にもサッカーにも、つまり自分の仕事にもうまくいかなくなった。突然足の震えも感じた」。
近親者や精神科医らの支えもあり、また読書や美術館巡りなど、1人の人間として過ごす時間を作ったことにより、うつの状態からは脱することはできたという。
ブッフォンは、出版当時のインタビューでこう答えている。「いくら金持ちであろうが、また有名であろうが、うつには捕まるものだ。どういう仕事をしていたって、やる気が失せる時はくるものだし、時には人生そのものに満足がいかなくなる」。
そういった危機を克服し、人間として成熟した彼だからこそ、セリエB降格などの激動にもかかわらず地に足をつけたキャリアを送ることができたのだろう。昨季に達成した973分の無失点記録(アディショナルタイムを加算すれば1023分間)昨季も、その人格的な力の表れに違いない。自らのセーブのみならず、守備陣全体を統率した結果でもあるからだ。
もっともブッフォンが偉大であればこそ、クラブはその後継者に悩む。やれミランからドンナルンマの引き抜きを考えているとか、セリエBのSPALで大活躍中のアレックス・メレトを抜擢するとか噂は絶えない。いずれにせよ人選次第では、ユベンティーノたちはブッフォンの名をコールし続け、引退も先延ばしになるかもしれないが…。
(文:神尾光臣【ミラノ】)
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