試合前、若手選手に話しかける吉田の姿
試合開始直前の待機スペース。三々五々、両軍のプレーヤーたちが姿を現す中、ピッチへの出口と反対側の壁際で、サウサンプトンの赤と白のストライプに身を包んだ吉田麻也が、何やらしきりに両足を上げ下げしながら、隣に立つ同僚に話しかけている。おそらく、相棒CBのジャック・スティーヴンズだろう。若いスティーヴンズはほんの時折、首をかすかに縦に振る仕草こそすれ終始無言、心なしかうんざりしたような冷めた表情で、吉田をじっと見つめるばかりだ。
しばらくして吉田は、今度は反対側の隣に並んだ別の若いプレーヤーに向き直り、まったく同じ仕草と熱心な口ぶりで何事かを説き始める。確認はできないが、おそらく左サイドバックを務めるこちら、サム・マックイーンの反応も似たり寄ったり。そのうち、二人に対する吉田の一連の“説諭ぶり”は、どことなく滑稽にすら見えてきて…。
ちなみに、この溜まり場の中で、吉田のような技術的(?)で事実上一方的な対話を仕掛けている者など他には誰一人いない。笑顔と二言三言の挨拶の交換のみ。というよりも、それが普通だ。ゆえに、吉田のそのパフォーマンスが妙に印象に残っている。
スティーヴンズ、23歳、マックイーン、22歳。いずれもイングランドのアンダーエイジ代表に名を連ねているが、プレミアでの実戦経験では、2012年8月からブリテン島南岸に腰を据えた吉田に遠く及ばない。
ちなみにバックラインのもう一人、右サイドバックのセドリックは3年目、セインツの一員としての出場試合数は吉田の半分以下、多分英語はまだ片言で、ざっと見ても同僚たちと会話している節はほとんど見受けられない。