クラブ史上3番目の若さでJデビュー
そして、ほかならぬ安部自身が満足していなかった。18歳2ヶ月4日でのJ1デビューは、アントラーズの歴史ではMF野沢拓也(現ベガルタ仙台)の17歳7ヶ月29日、DF内田篤人(現シャルケ)の17歳11ヶ月6日に次いで若いが、ただ単にスタートラインに立っただけだと表情を引き締める。
「試合後はいろいろな先輩方やスタッフにナイスプレーではなく、『とりあえずデビューはおめでとう』という声をかけられました。もうちょっとやれることはあったと思いますけど、これがいまの実力だし、僕自身もこれからだと思っているので、練習からどんどん頑張っていきたい。
やっぱりフィジカル的にも練習と試合は全然違いましたし、こういう環境に慣れることも大事だと思うので。今日はいい経験で終わってしまったんですけど、常に得点に絡めるような、前を向いてボールをもっただけで相手ディフェンスが嫌がるような選手になっていきたい」
ピッチに入ると、ツートップを組む鈴木が笑顔で出迎えてくれた。キックオフから攻撃だけでなく守備でも走り回り、疲労困憊だった3年目の20歳は、安部にこんなミッションを託している。
「オレは中央に残っているから、角(コーナーフラッグ)へどんどん走って流れてくれ」
アルディージャの最終ラインに絶えずプレッシャーをかけて、下げさせることで全体を間延びさせる。元気いっぱいに「わかりました。走ります」と返した安部は、6分間のアディショナルタイムを含めた22分間で2.985キロを走破している。
90分間に換算すれば12キロを軽く超える運動量に「たくさん走りましたね」と笑った18歳は、こんな言葉をつけ加えることも忘れなかった。
「状況によっては自分が引かなければいけない場面もあったし、そこでセカンドボールを拾えなかったことがあった。あれはナンセンス。そういうことも大事にしていかないと」
攻撃だけでなく守備でも課題と積極的に向き合い、成長への糧に変えていく。171センチ、65キロのやや小柄な体には無限の可能性が凝縮されている。常勝軍団アントラーズにまた一人、楽しみな新星が現れた。
(取材・文・藤江直人)
【了】