90年代を直接知らない廣末。相手チームのGKは41歳川口
清水商業高校での全国制覇も、アトランタ五輪で王国ブラジル代表を撃破した「マイアミの奇跡」も、そして日本代表が悲願のワールドカップ初出場を勝ち取った「ジョホールバルの歓喜」も。守護神・川口能活がさっそうと駆け抜けた濃密な1990年代を、FC東京のルーキー、GK廣末陸は直接知らない。
何しろ産声をあげたのが、岡田武史監督に率いられた日本代表が3連敗でグループリーグ敗退を喫した直後の1998年7月6日。それでも青森山田高校の守護神として今年度の全国高校サッカー選手権を制し、プロの世界に飛び込んだ18歳は、「僕のアイドルなんです」とレジェンドへ憧憬の念を抱いてきた。
「身長があまり高くないなかで、あれだけの素晴らしい成績を残された方なので。僕にとっての憧れの人ですし、(川口)能活さんを超えるくらいの気持ちでやっていかないといけないと思っています」
現在はJ3のSC相模原でプレーする川口のサイズは180センチ、77キロ。決して恵まれていない体の大きさを、シュートストップの速さ、攻撃の起点になる正確なフィード、そして「炎の守護神」と呼ばれる理由にもなった、最後尾から味方を熱く叱咤激励する存在感で補ってあまりある活躍を演じた。
廣末も身長では苦い思いをさせられた。FC東京U‐15深川でレギュラーを勝ち取りながら、2013年の夏にFC東京U‐18へ昇格できないと告げられた。理由は当時で180センチに届かなかった身長だった。
昇格を勝ち取ったのは180センチを超えていたチームメイト山口瑠伊と、すでに190センチを超えていたFC東京U‐15むさしの波多野豪。ゴールキーパーというポジションゆえに、絶対的な「高さ」が求められるのは理解できた。それでも、廣末は臥薪嘗胆の思いを胸中に秘めて青森山田の門を叩いた。
「見返してやりたい、という一心でずっとやってきました。選手権で優勝して、高卒でプロになろうと」