時代遅れとなったシステムの固定化。戦術マニアぶりが見えるイタリアのいま
3.システムの柔軟化
そしてこれらの戦術を実現させるため、4-4-2や4-3-3といった選手の並び、つまりシステムも固定されたものでは機能しなくなった。試合中でも3バックや4バックに切り替えるのは当然のこと、攻撃と守備で別のシステムを使い分けるチームも出現している。
守備時には3-5-2、だが攻撃時には両ウイングバックを極端に前に上がらせて3-3-4といった風情のシステムを取らせたアントニオ・コンテ監督(現チェルシー)時代のユベントスがその先駆だが、それも伝播している。守備時には4バックで守りながら、攻撃時にはパス回しに長けた3バックを最終ラインに残すフィオレンティーナもしかり。ミランのヴィンチェンツォ・モンテッラ監督に至っては、攻撃時には前線に5人を張らせるシステムを運用している。
また、守備においてもシステムの固定化は古くなった。ローマのナインゴランはただトップ下にいるのではなく、プレスを掛けるべき相手によって中央にもサイドにも移される。またインテルも、2トップを備えた相手には右サイドバックを中央に絞らせ、3バック状の対応をさせることがある。ジャンピエロ・ガスペリーニ監督のもとフィールドプレーヤー全員にマークを振り分けているアタランタは極端な例だが、局地的にはどのクラブもシステムを“崩し”、相手の攻撃に対応する傾向が顕著になっている。
以前よりも攻撃的になったと言われるセリエAだが、各チーム、各監督の戦術マニアぶりは守備のみならず、別の方向で活かされるようになった。これが、戦術大国イタリアの今のトレンドである。
キエーボやカリアリなどの地方クラブも、後方からのビルドアップや速攻を駆使し面白いサッカーを見せている。こういった駆け引きを読み取るのも、セリエA観戦の楽しみ方の一つだ。
(文:神尾光臣【ミラノ】)
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