ファンの途中退席は何を意味するのか?
無論、ファンにとっては見るに忍びない状況だ。実際、エミレーツのスタンドには試合終了を待たずに空席が目立っていた。試合前のデモ行進よりも、雄弁に観衆の心境を語る退席。彼らは、ヴェンゲルへの敬意を失ったわけではない。指揮官の「首」を欲しているわけでもない。求めるのは、耐え難い停滞から抜け出すための「変化」だ。
ただそのためには、選手を指導する監督、補強を含めて方向性を決めるフットボール・ディレクター、予算を管理するCEOの三役を兼ねるとも言える指揮官に身を引いてもらわなければならない。
噂の後任候補には、内定済みとの報道もあるマッシミリアーノ・アッレグリ(ユベントス)、攻守のバランスを取れるロナルド・クーマン(エバートン)、骨のある集団を作るディエゴ・シメオネ(A・マドリー)といった複数名が挙がっている。
誰が後を継ぐにしても、まずはヴェンゲルの決心次第。その出場権を「無形のトロフィー」と呼んできたCLから無様に姿を消した今季を最後に自らもアーセナルを去るとなれば、誇り高き指揮官にとっては耐え難い屈辱に違いない。
だが、それ以上の監督であればこそ、ヴェンゲルは愛するクラブを「ヴェンゲルのアーセナル」ではなく「アーセナル」として前進させるべく、プライドを飲み込んで身を引く。偉人らしい「勇断」を以って、20年半の長期政権を終えてくれる。そう願いたい。
(取材・文:山中忍【ロンドン】)
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