日本中を興奮させた「2017年2月26日」も通過点
中田監督は強化育成テクニカルダイレクターとして2015シーズンに横浜FC入りし、体調不良で辞任と再登板を繰り返したスロベニア人のミロシュ・ルス前監督から昨年6月にバトンを引き継いだ。強化の現場のそれぞれ最高責任者として、カズを見てきたことになる。
「強化の立場で言えば、シーズンを通してチームのためにどのような形で貢献できるのかを見てきました。僕はスターだから、という部分がいっさいないし、逆に周りの選手以上の努力を積んで試合に臨んでいますから、僕としては『現役を続けられるのならば頑張りなさい』という形で見ていました。
カズ自身が『グラウンドで死にたい』と言っているのだから、それでいいじゃないですか。これだけJクラブの数が増えたなかで、そういうレジェンドが一人いても。ウチの練習場に来てもらえばわかりますよ。ランニングでも先頭に立って走っていますからね」
川淵氏によれば、カズは「90分間ピッチに立てる前提で選手を続けたい」と、20代のころと変わらないスタンスを貫いているという。スプリント力を含めて、体力面で真っ向勝負をしたらもちろんかなわないことは、カズ自身が誰よりも理解している。
「技術とかグラウンドに立ったときの駆け引きとか、経験で補えるものはありますし、どれだけゴールに貪欲になれるかという部分で、ゴールに対しての伸びしろはあるんじゃないかと思っています。ゴールに対する気持ちを高めていけば、ゴールすることに関する伸びしろはまだあるんじゃないかと。
本当に先のことはあまり考えられなくて、明日また練習を一生懸命やって、そのために準備をする。毎日毎日その積み重ねしかないので。だから目標とか、特別大きなものはないんですけど、目の前にある試合に出て、ゴールして、1秒でも長くピッチに立っていたい。それが目標です」
日本中を興奮させた「2017年2月26日」も、カズにとっては通過点。いつかは誰にでも訪れる現役との別れを、なるべく近づけないように不断の努力を重ねていく――。50歳になったレジェンドの真実は、この姿勢に凝縮されている。
(取材・文:藤江直人)
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