「勝つために僕もやっているわけですからね」(中田仁司監督)
野村にとって忘れられない一戦がある。昨年6月19日。ホームにFC岐阜を迎えたJ2第19節。直前に第一子となる長男が生まれていた野村に対して、ともに先発に名前を連ねていたカズは「ゴールしたらみんなで『ゆりかごダンス』だ」と告げていた。
もっとも、迎えた前半22分に先制ゴールを決めたのはカズ本人だった。しかも、昨シーズンの初ゴールだったこともあって、興奮してしまったのか。チームの誰かがゴールしたら「ゆりかごダンス」を、という約束をすっかり忘れてしまっていた。
「いつものカズダンスを踊って、僕たちも後ろでイェー!みたいに騒いでいたんですけど、そのまま終わりそうな感じになったので、他の選手が『ゆりかご、ゆりかご』と。息子のためにカズさんを含めたみんなで踊れたことは、一生の思い出です。息子が大きくなったら言ってあげたいですね。
カズさんは僕たち選手のお手本であり、鏡でもある。そして、日本中でサッカーをしている人の憧れでもある。50歳になるまでピッチに立ち続けるなんて普通じゃないし、他のチームの選手からも『カズさんってどうなの』とよく聞かれます。驚くだけじゃなくて、僕たちもカズさんを目指していかないといけない」
開幕戦の開始16分。ペナルティーエリアの外側から思い切り右足を振り抜き、ネットを揺らす値千金の決勝ゴールを奪ったのは野村だった。崇高で、それでいて無邪気な一面を忘れないカズの一挙手一投足が、存在そのものがチームを変えつつあると中田監督も目を細める。
「横浜FCというクラブの力が、カズをバックアップしている部分は正直、あります。それでも、何て言ったらいいのかな、カズがかわいそうだからそこ(ピッチ)にいるわけではない。毎日のコンディションを見ながら戦いに挑み、勝つために僕もやっているわけですからね」