指揮官が評価するFWとしての成績
たとえば昨シーズンのカズを振り返れば、20試合に出場して2ゴールという成績を残している。先発した9試合では66分間が最長と、ゴール数だけでなくプレー時間も、イバ、津田、大久保哲哉を含めたフォワード陣のなかでは最も少なかった。
それでも中田監督はトータルのプレー時間が639分、換算すれば約7試合で2ゴールをあげたカズの攻撃面での内容も高く評価している。
「カズがもっているストライカーの能力は、そこにあるわけですよね。他のチームからは『あの監督、大丈夫かな』と思われているかもしれませんけど、監督としては使いますよ。確率がいいわけですから。結果を出しているわけですから。ウチの他の選手たちも、仲間として一緒に戦っているわけですから」
カズは練習開始時刻の2時間前には、横浜市内にあるクラブハウスに到着。ストレッチなど入念な準備をほどこしたうえで、他の選手たちと同じ練習メニューを消化する。終了後も長いときで5時間ほどクラブハウスに残り、室内でできるトレーニングを黙々とこなし、体のケアにも十分な時間を割く。
「サッカーが好きだ、ということに尽きると思う。子どものころからサッカーしか知らないし、だからこそサッカーには感謝している。サッカーに対して失礼のないように常に全力を尽くしたいし、体と情熱が続く限りはやりたい」
いっさいの妥協を許さない、ストイックで真摯な姿勢を貫く理由を、カズはこう語る。チーム内にはカズの姿に魅せられ、意識をあらためる選手もいれば、中田監督をして「あの人はあの人でしょうと、別枠みたいな見方をするのも当然いる」と言わしめる選手もいる。
ただ、たいていの場合、後者の選手は淘汰されていくという。今シーズンから副キャプテンを務める入団4年目のMF野村直輝はカズに感銘を受け、サッカーに注ぐ思いを根本から変えた一人だ。
1991年4月生まれだから、まもなく26歳になる。年齢的にはカズの約半分。カズが涙した1993年10月の「ドーハの悲劇」と言われてもピンとこないと苦笑いする世代であり、福岡県に本拠地を置く日本経済大学時代は、サッカーとの距離がそこまで近くはなかった。
「実を言うと大学のときは練習にも開始ぎりぎりで行って、終わったらパッと帰ってしまうような感じの選手でした。いまではできる限り早くクラブハウスに到着して、準備するようにしています。カズさんと同じくらいの到着を目指している感じですね。
カズさんに対して、『もっている』といった言い方をするのは失礼かなと。練習前の準備を含めて、サッカーに対する姿勢があってこその結果、努力の結晶なので。横浜FCに入ってカズさんと出会えたことほど、僕のサッカー人生で大きなことはないと思っています」