開幕戦が50歳の誕生日という巡り合せ
不惑を迎えてからのカズがプレーしている試合を見た記憶が、Jリーグの初代チェアマン・川淵三郎氏にはない。それでも、今シーズンの開幕戦のカードおよび日程が決まったときから、2月26日だけはニッパツ三ツ沢球技場に足を運ぼうと決めていた。
「クラブに迷惑をかけたらいけないと思って、チケットを買って入ろうと思ったら売り切れなんだよね」
チケットは前売り段階で完売していた。対戦相手の松本山雅FCのファンやサポーターが長野県松本市からバス37台、約6000人も駆けつけたことも、三ツ沢における横浜FCの主催試合では最多となる1万3244人でスタンドが埋め尽くされた理由のひとつとなる。
そして、もうひとつの理由として、希代のスーパースターが引き寄せた「偶然」を挙げないわけにはいかないだろう。開幕戦が誕生日。それも50回目のそれとなれば、おそらくは語り継がれていくアニバーサリーとなる。
出場するたびにJリーグの最年長出場記録を更新するようになって久しいカズが、50歳のJリーガーとして歴史に名前を刻む。10年以上の空白期間を越えて、それでも川淵氏をして「カズを見たい」と思わせたように、老若男女や世代を超えた大勢のファンやサポーターが引き寄せられた。
忘れもしない1993年5月15日。いまは取り壊されてしまった旧国立競技場で、川淵チェアマンの開会宣言に続いてJリーグがスタートした。カードはヴェルディ川崎と横浜マリノス。25年目を迎えたいま、ともに東京ヴェルディと横浜F・マリノスにチーム名称を変え、前者はJ2を戦っている。
時間の経過を感じさせられるなかで、夫人のりさ子さん特製のエルメスのキャプテンマークを左腕に巻いて、当時のスター軍団だったヴェルディをけん引していたカズの先発がアナウンスされる。横浜FCだけでなく、松本山雅のファンやサポーターたちもいっせいに惜しみない拍手を送った。
1993シーズンからJの舞台でプレーしている選手は、あとはMF伊東輝悦(アスルクラロ沼津)しかいない。もっとも、静岡・東海大第一高校から清水エスパルスに加入したルーキーの伊東と異なり、当時26歳のカズは日本代表のエースも担い、訪れようとしている新たな時代の寵児でもあった。
「考えてみれば、感慨ひとしおどころじゃないよな。あのときに若手の端くれのような感じで出ていたわけではないんだからね」