エメリ監督、クラブ内での立場好転か
そしてエメリ監督。12月12日の抽選会でラウンド16の相手にバルセロナを引き当てた頃、PSGは3戦連続勝ち星から遠ざかり、エメリの首はまさに皮一枚でつながっている状態だった。
アル・ケライフィ会長がカタールのお偉いさんに呼ばれたという噂も流れたが、案件はもっぱら「監督の去就問題」だと言われていた。抽選の結果が決まったあとは、フランスのメディアは『エメリのバルサ戦の対戦成績は絶望的!』と報じていた。
アルメリア、バレンシア、そしてセビージャでの監督時代に計23回バルセロナと対戦し、エメリはわずか1回しか勝利をあげていなかった(1勝16敗6分)。
年間総得点数など、数々の歴代リーグ記録を作ってリーグアン4連覇をおさめた前任者のローラン・ブランがクビになったのは、CL4強入りの壁を越えられなかったからだが、それに加えて、欧州制覇を目標とするPSGにとって、バルセロナ超えはひとつの指標でもあった。
期せずして、カタール勢が参入して以来、PSGは今年を含めて3シーズン、バルサと相見えるチャンスを得ている。12-13シーズンは準々決勝であたり、総計3-3ながらアウェイゴールの差で敗退、14-15シーズンはGLで同グループとなり、ホームでは3-2で勝利したが、その後準々決勝で再戦すると、このときは両レグで敗れて総計1-5と完敗だった。
何度も道を阻まれたバルセロナ。その彼らを踏み越えてCLの頂点を目指すことは、PSG、そしてオーナーのカタール勢にとって、この上なく重要なことだった。
それを実現するべく招聘されたウナイ・エメリに、まるでオーナーの信用を得るための通過試験のごとく与えられた、今回のバルセロナとの対戦チャンス。そして彼は見事、4-0という結果を手にいれた。
試合後「この試合に勝ったことであなた自身のクラブでのポジションも好転するのでは?」と聞かれたエメリは、「監督の仕事は1試合の勝利で変わるようなものではない。私が満足しているのは、選手がファイティングスピリッツをもって戦ったこと、そしてサポーターも一体となって素晴らしい雰囲気を作ったこと。個人的なことではなくね」と答えた。
実際まだ勝ち抜けが決まったわけではない。過去の統計を鵜呑みにして浮かれるのは早い。しかしこのバルサ戦の夜は、エメリはPSGの指揮官に着任して初めて、枕をいつもよりほんのすこし高くして眠れたのではないか、という気がする。
(取材・文:小川由紀子【パリ】)
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