サポーター、ウルトラス、フーリガン
サポーターです、と言えば「すごいですね」と言われるのは、おそらく試合で暴れるフーリガンの記憶があるからだろう。対戦相手のチームを口汚く罵倒し、ときには相手チームの「サポーター」と喧嘩したりする人たちの印象があるから、「サッカーのサポーターってこわい」と世間からは思われてしまう。
だが、サポーターとフーリガンははっきり異なる。サポーターの中でも特に熱心に一つのクラブを応援し、そのクラブを応援するサポーターズ・グループに属している人たちは「ウルトラス」と呼ばれる。
ドイツ人記者のフィリップ・グレイメルは「欧州フットボール・ファンの歴史」で、ウルトラスとフーリガンをこう区別している。
「フーリガンにとって興味があるのはスポーツの試合ではなく、別のフーリガンと喧嘩することにある。大半は政治的なバックグラウンドを持ち、喧嘩ができさえすれば相手を問わない」
一方でウルトラスにとってのモチベーションは「試合展開がどうあろうと、チームがゴールをあげられるように試合を通して応援し続けること」にある。ウルトラスはクラブのためになることを必死に考え、行動する。グレイメルは言う。「ウルトラスはクラブのために生きている」
フーリガンの語源には諸説あるが、その一つが18~19世紀にロンドン南部地域で暮らしていたアイルランド系のオフーリハンという家族の名前をとったという説である。
もう一つ、18世紀後半に同じくアイルランド人のパトリック・フーリガンからとられたという説もある。いずれも過剰なアルコール摂取と喧嘩好きで有名で、たびたび警察のお世話になったことから、警官たちの間では大酒をくらって暴力行為に走る人たちをフーリガンと呼ぶようになった。
時代が下って、フーリガンは酒場や路上だけでなくサッカーのスタジアムに出没するようになり、19世紀後半には審判や選手に暴力をふるうフーリガンが続出した。
1909年にはスコットランド、グラスゴーで試合後にピッチになだれこんだフーリガンがゴールポストに火をつけ、売店を壊し、警官隊ともみあって100名以上が怪我をするという事件が起きた。ここで初めてフーリガン=サッカー場で暴力行為に及ぶ集団、と定義されるようになった。