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J最多指導歴の監督はなぜ地域リーグへ? 石﨑信弘の“熱くて面白い”選択

text by ミカミカンタ photo by Getty Images

揺るぎない指導者としての実績と類稀なる求心力

「わしは現場が好きなんよ」とこれまで何度も石﨑から聞いていた。「今回もJクラブのフロント入りとか、いろいろ話もあったんじゃけど、そんなのもったいないじゃろ」。見えない相手に強く頷きながら話の続きを待つと「今までも安い給料でやってきたし、現場ならどこにでも行くつもりだったんよ」と言った。

 その言葉通り、J2クラブをJ1に昇格させてもさほど変わらぬ安い年俸で監督を続けたし(唯一の例外は柏レイソルだった)、2013年には中国の杭州緑城でU-18の監督もやっている。「大きいクラブでやるより、金のない小さいクラブの方がやりがいもあるし、性に合っとるんじゃ」とまた笑い、私もつられて笑った。

 気になって少し調べてみると、この時期になっての就任発表はテゲバジャーロ宮崎側の事情で、石﨑の前に何人か候補がいたがどれも不調に終わり、石﨑に話がまわってきたからのようだ。だが、石﨑にはそんなことを気にする素振りもない。

 ひとつ残念なのは、J1からJ3まで、Jリーグには54クラブもあるのに、どこも獲るクラブはなかったのかということだ。特にJ2やJ3の中にはまだクラブとして組織が未整備のところがいくつもあるし、クラブとしてホームタウンと一体化できずに悩んでいるところも見受けられる。そういうクラブはサッカー指導者としての石﨑のキャリア・実績はもちろんのこと、彼の持つ類稀なる求心力をおそらく理解していない。

 ある時、私は石﨑と話している自分がいつも笑顔になっていることに気づいた。それから気にして周りを見ると、ほとんどの人間が笑顔になっている。選手からの信頼も篤い。石﨑はそういう人間だ。

 指導者としての厳しさと人間としての茶目っ気が絶妙に同居している。かつての教え子で、今は指導者の道を歩んでいるサッカー人が、トレーニング方法のことで石﨑に教えを乞うのは珍しいことではない。

 昨年まで在籍した山形の強化・運営部統括・中井川茂敏取締役は一昨年のシーズン前、私にこう言った。「サッカーの指導力はもちろんですけど、魅力はなんといってもあの人間性ですよ。あんな素晴らしい人間はそうそういない」と。そして「できる限り監督を続けてもらうつもりです」と続けた。

 だが山形には目に見えぬ事情があったようで、それが叶わなかったのだろう。石﨑はJの舞台を去ることになってしまった。

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