ローカルルールで作られた独裁規定
根本に立ち返ってみよう。果たして、弁護士や税理士が書面だけでそのクラブの本質を理解し、裁くことができるのであろうか。今西が社長時代のFC岐阜は「地域のためになるサッカークラブ」という理念通り、何年もホームタウン活動でぶっちぎりの1位を走っていた。
しかし、そんな現場を評価する項目はFIBの審査には存在しない。本当に地域のことを考えてクラブ経営をしていたら、居丈高な中央のライセンサーたちに頭を下げている暇など無い。今西の行状を知る人は「マツダ時代から見ても分かる。選手や指導者の育成、地域貢献など、あの人ほどJリーグ百年構想を具現化できる人はいない」と口を揃える。その人材をJリーグのクラブライセンス事務局は法で裁かず人で裁き、自ら放逐した。
大河は日本バスケットボール協会で行った私とのインタビューでは「ライセンス事務局がクラブに対して人事に介入することはしてはいけないし、そんなことはしていない」と強弁していたが、ボロボロと新事実を示す文書が出てきた。
ローカルルールで独裁規定を作り、そこに君臨し、熱心なクラブ経営者をライセンス制度を盾に追い出し、部下のモラハラを管理できず、AFCにモノが言えず、チェアマンが年下に変わるとさっさとバスケット協会に移動する。一体、初代ライセンスマネージャーとは何だったのか。
Jリーグの名誉のために付記するが、県庁を使った今西の解任劇は密室で行われたためにチェアマン以下、ほとんどの職員は知らない。現在のライセンスマネージャーが知らされていたかどうかは分からない。この事実は『徳は孤ならず』(集英社)という拙著の取材で掴んだものである。
「書き下ろしの新刊に書いたネタを早々にバラすのは止めた方がいい」と忠告してくれた同業者の先輩もいたが、そんなことよりもサッカー界において広くアナウンスすべき重大なものであるとの判断でここに記す。
新たに質問状を送った大河からの誠意なき回答やライセンス事務局が行政職員をスパイのように動かしていかに卑劣な今西降ろしを本人の知らない所で行っていたか、その詳細を知られたい方は同書を立ち読みで結構なので手に取っていただきたい。
ライセンス事務局の記者会見に行くと、Jリーグの広報も「我々もよく数字は分からないのですが」との司会をされる。それはとても正直だと思う。医療や経理についての専門知識は我々には無い。しかし、いつまでもブラックボックスにしていてはいけない。この暴走を同事務局以外の職員は誰も知らなかった。ならば再発防止のためにもしっかりと可視化しておかなければならない。
※本記事は『フットボール批評Issue12』(7月6日発売号)の記事全文を一部再編集して掲載しています。
(取材・文:木村元彦)
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