第三者機関の存在意義ライセンス制度の欠陥
これを機会にJリーグクラブライセンス制度を検証したいと思う。制度設計の段階からまず洗いなおしてみた。よくドイツの成功例が挙げられるので世界標準の規約かと誤解されがちだが、この制度は純然たる各国ごとのローカルルールである。
ドーピングにおけるWADA(世界アンチドーピング機構)のような権威が存在するわけではない。そもそも大元のAFC(アジアサッカー連盟)はACLに出場するには監査法人の審査を受けた書類が必要としか言っていない。あとはそれぞれリーグごとの事情に応じて制度は任されている。韓国のKリーグなどははなからあまり重視していない。
すなわち3年連続赤字は不交付、債務超過は一発でアウトというのはJリーグのみのローカルルールであるということは理解しておくべきであろう。赤字についてはJ1の大きなクラブについては親会社が補填してしまうのであまり意味が無く、J2、J3の責任企業を持たないクラブにとっては、いきなり高いハードルを設定させられてしまったことになる。
ACLの報告期限のために審査締め切りが早まり、Jリーグでは8月からヒアリングが始まるが、現実的にACLに出場する可能性の無いJ1の中位以下のクラブにとっては「まだシーズン途中で来季が降格か残留かの見極めもできないときに審査されても萎縮するだけだ」という気持ちがある。
ここは本来ならば、ラインセンサーが自国のクラブを守るためにAFCに具申すべき点だが、それはせずに逆に地方クラブを苦しめている。2015年に愛媛FCが起こした粉飾決算については、ライセンス交付のために何がなんでも赤字はいけないということで会計担当者が数字を操作してしまったという背景があった。もちろんそのこと自体、罪ではあるが、ライセンス制度が粉飾を誘発させてしまうのでは本末転倒とも言えよう。
そのJリーグのライセンスの交付規約を熟読すると制度欠陥が見えてくる。交付規則の第14条と16条。読んで目を疑った。交付を決定する外部の第三者監査機関であるはずのFIBの人選は実はクラブライセンス事務局の推薦なのである。
さらに審査結果に不服があったときのために上訴する機関ABが存在している。ここもその役割上、独立していなくてはならないが、そのメンバーを推薦しているのもクラブライセンス事務局なのである。クラブを裁く第三者機関がすべて仕事紹介の人間関係で繋がってしまっている。
ここに元凶がある。少なくとも大河がライセンスマネージャーの時代は、第三者が審査している体裁をとってはいるが、そのサポートと称してライセンス事務局がリードして自分たちのやりたいようにクラブの形を変えてしまった。岐阜はその一例である。
これは無罪の我那覇和樹選手(当時川崎フロンターレ)を貶めた2007年のドーピング冤罪事件と共にJリーグ自らが今後、猛省し、再発防止のために制度改革をしていかねばならない事件と言えよう。
ドーピング冤罪事件のときは我那覇選手に対して施した治療方法が分かっていたので、Jリーグの全チームドクターが立ち上がってその名誉を回復させることが出来た。しかし、クラブライセンス制度については、経営に関するということを名目にFIBの議事録も公開されることは無く、密室で行われるので何がどう裁かれるかが全く不明である。
そしてこれが大きなポイントだが、FIBにもたらせる情報はクラブライセンス事務局から提供されたものだけである。先述したとおり、チェアマンでさえ触れることができない。そしてドーピング冤罪のときはCAS(スポーツ仲裁裁判所)に上訴することが(膨大な費用がかかりながらも)できたが、クラブライセンスの場合は実質的にABが機能しないのでそれすらできない。
私は「ライセンス制度が出来てから、3年連続赤字も債務超過も無くなりました」という自慢を聞くと苦笑を禁じえない。それは、そうだろう。そうしないとクラブが活動できないのだから。