グラスルーツの拡大で拓けるベトナムサッカーの未来
試合当日の闇市では、通常価格60万ドン(約3000円)のチケットが200万ドン(約1万円)で売買された。因みに統計資料によると、ベトナムの平均月収は約550万ドン(約2万7500円)とされており、平均月収の半分近い価格にまで上昇したことになる。
もはや恒例となったチケットを巡る騒動からは、サッカー連盟の大会運営のまずさもうかがえるが、それ以上にスズキカップの注目度の高さと代表人気のすさまじさを物語っている。あらゆるスポーツの中で、サッカーが一番人気のベトナムでは、代表チームのブランド価値が非常に高い。
ベトナム代表のブランドマーケティングは広告大手の電通が担当しており、現在は、スズキ、ヤンマー、Z.comの日系3社がトップスタパートナーとしてベトナム代表をサポート。一部のスター選手はCMにも出演しており、Facebookやインスタグラムではアイドルやタレント顔負けのフォロワー数を誇る。
また、ベトナムの街中にはいたるところにフットサルコートが点在し、安くレンタルできるため、誰でも気軽にサッカーを楽しむことができる環境がある。もともと子供の教育に投資する意欲が強いベトナムの家庭だが、“黄金世代”人気の影響からか、最近は習い事にサッカーを選ぶ親も増えてきたように思う。
グラスルーツは確実に拡大しており、現在は優れた指導者の養成が課題となっている。サッカー連盟や各クラブでは、ドイツやフランス、日本などの海外から経験豊富な指導者を招聘して、この改善に努めている。
話を元に戻すが、現在のベトナム代表は世代交代の過渡期にある。しかし、アンダー世代に目を移せば、U-19ベトナム代表がAFC U-19選手権2016でベスト4に進出して、U-20ワールドカップ初出場を決めるなど目覚ましい成長を遂げており、ベトナムサッカー界の未来を担う人材は確実に育ってきている。
来年末には、23歳以下の代表チームが出場する東南アジア版オリンピック「SEA Games」が開催され、ベトナムはこの大会で悲願の初優勝を狙う。ベトナムが真の東南アジア王者に返り咲くための準備はもう既に始まっている。
(取材・文:宇佐美淳【ホーチミン】)
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