昌子への賞賛を惜しまなかったベストイレブン選出者たち
決勝前日にこう語っていた昌子だが、何も白旗をあげていたわけではない。これまでの戦いを通して積み重ね、シーズン終盤に入ってさらに磨き上げた感覚や経験で対処する。思い描いてきたシーンが現実のものとなったのは、2‐2で迎えた決勝の後半42分だった。
アントラーズの攻撃をしのいだレアル・マドリーが、電光石火のカウンターを仕掛ける。ベンゼマの縦パスに抜け出したのはロナウド。対峙するのは自分だけという絶体絶命の状況で、昌子はうかつに飛び込むことなく、絶妙の間合いを保ち続けながら下がっていった。
そして、ペナルティーエリアの目前で、ボールがロナウドの足からわずかに離れた瞬間に素早く体を入れて、背番号7の自由を奪う。MFイスコがフォローにきたが、プレスバックしてきたMF永木亮太との共同作業で、ファウルを犯すことなくマイボールにしてみせた。
7万人近い大観衆で埋まったスタンドを熱狂させたシーンは、年間王者をかけて戦ったライバルたちの胸をも熱くさせた。Jリーグアウォーズで歴代最年長の36歳で最優秀選手賞を受賞した、川崎フロンターレのMF中村憲剛は昌子に頼もしさを感じたという。
「試合ごとに成長していく姿を見ていましたけど、特にレアル・マドリー戦では『最後は自分が守る』という気概を感じました。これだけたくましい日本人のディフェンダーが、若い選手のなかから出てきたことを、率直に嬉しく思いますね」
ともにベストイレブンに選出され、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に率いられる日本代表では、センターバックのポジションを争うライバルとなるレッズのDF槙野智章も昌子への賛辞を惜しまない。
「代表チームではハリルホジッチ監督から前へ出る守備、ファウルをしないでボールを奪う守備を僕たちディフェンダー陣は求められているけど、その意味で大会を通してMVP級の活躍をしたのは昌子選手だと僕は思っています」
もっとも、当事者である昌子自身は、ロナウドを封じたシーンを含めて、アントラーズが一時逆転してからは本気モードになったレアル・マドリーと対峙した120分間をこう振り返る。
「あの場面は別にロナウド選手どうこうじゃなくて、あそこで僕が抜かれたら失点なので。相手が誰だろうと、意地でも止めるしかなかった。見ている人は『けっこうできたんじゃないか』と思うかもしれないけど、やっぱり負けたら意味がない。
満男さんが『負けたら2位も最下位も一緒』とよく言うのは、このことなのかと。優勝して初めて成長した、初めていいディフェンスだったといわれると思うので」