アントラーズの伝統とは何か
深紅のユニフォームを漆黒のタキシードに着替えて、鹿島アントラーズのDF昌子源は壇上にあがった。スタジアムのカクテル光線とはやや趣が異なる、華やかなスポットライトが緊張感を高めたのか。
司会進行役を務めるサッカーに造詣の深い俳優、勝村政信から質問を投げかけられる。いきなり噛んでしまい、見守っていたチームメイトたちを苦笑させたが、思いはしっかりと伝えることができた。
「この賞を受賞するときに、まずはチームメイトの顔が浮かびました。僕一人での賞ではないので、まずはチームメイトに感謝したいと思います」
20日夜に横浜アリーナで行われたJリーグアウォーズ。2016シーズンのJリーグを締めくくる晴れ舞台で、昌子は年間王者・アントラーズからただ一人、ベストイレブンに選出された。
アントラーズからは、Jクラブのなかでは最多となる通算20人目の選出。背番号3の系譜に名前を連ねるクラブのレジェンド、秋田豊と岩政大樹に個人タイルの部門で肩を並べることができた。
昌子自身も手応えを感じていたのだろう。レアル・マドリー(スペイン)とのFIFAクラブワールドカップ2016決勝を終えた直後。横浜国際総合競技場の取材エリアで、こんな言葉を残している。
「成長したな、と自分でも思うけど、ここにきて成長したわけではない。僕は今シーズンのJリーグを通して成長してきたと思っているし、だからこそ集大成となる試合で、チームを勝たせることのできる選手にならないといけなかった。秋田さんや(岩政)大樹さんは、そういう選手だったと思うので」
年間勝ち点3位からの下克上を成就させたJリーグチャンピオンシップ。そして、未知の敵を次々と撃破したFIFAクラブワールドカップ。26日間で計7試合、延長戦をひとつ含めた660分間にフル出場してきたなかで、昌子は心のどこかで常に自問自答していた。
アントラーズの伝統とは何か――。ディフェンスリーダーの証である背番号3を継承して2シーズン目。レギュラーシーズン後の大舞台に初めて臨むうえで、自然と芽生えた疑問でもあった。