アントラーズが狙いを定めた浦和の左サイド
選手交代には両チームの指揮官による、チェスをほうふつとさせる心理戦が交錯することが少なくない。レッズとしてはアントラーズの戦い方の変化を見極めて、それに対処する選手を投入するのが常とう手段だったはずだ。
1分後の59分。レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督も動いた。しかし、投入されたのはボランチの青木拓矢。シャドーの高木を下げて、その位置に柏木陽介を一列上げた。シーズン中でも頻繁に見られた、攻撃力をより高めるための選手配置だ。
さらに2分後の61分。再びレッズが動く。前半から再三にわたってアントラーズの脅威になっていた右ワイドの関根貴大に代わり、セカンドステージから頭角を現してきたドリブラー、駒井善成を投入する。慌ただしいベンチワークを、ペトロヴィッチ監督はこう説明した。
「30分すぎくらいからボールをつなげない、あるいは前へ蹴り出すだけになってしまった。私たちがリードして、相手が攻勢に出てくるなかで受け身に回ってしまった感は否めない。ハーフタイムには『しっかりと後ろから攻撃を組み立てていこう』と指示を出し、その部分は少しよくなってきたが、時間が進むにつれて若干、運動量が落ち、球際のところで相手に競り負ける場面が見えてきた」
この時点で、もはやチェスの様相を呈してはいなかった。アントラーズが狙いを定めた左サイドは、手つかずのままだった。ペトロヴィッチ監督は相手の出方に合わせるよりも、シーズン中から貫いてきた攻撃的なサッカーを貫こうと、ためらうことなく2分で2枚のカードを切ったことになる。
後半の攻防を見ていて、サンフレッチェ広島がガンバ大阪を1勝1分けで下した、昨シーズンのチャンピオンシップ決勝を思い出さずにはいられなかった。前者が敵地・万博記念競技場で奇跡の逆転勝利をあげて迎えた第2戦は、日本人指揮官同士によるヒリヒリするような心理戦が展開されたからだ。
試合は2点差以上の勝利が必要となるガンバが27分に先制。そのまま迎えた後半の57分に、ガンバの長谷川健太監督がMF大森晃太郎に代えて、MF倉田秋を投入する。倉田はトップ下に配され、宇佐美貴史(現アウグスブルク)が中盤の左サイドに回った。
すると、ガンバが最初の交代のカードを切るのを待っていましたとばかりに、サンフレッチェの森保一監督が動く。同じ57分にFW佐藤寿人に代えて、FW浅野拓磨(現シュトゥットガルト)を投入した。