セットプレーが大きな武器に。その強さの秘密とは?
もう一つは、セットプレーの強さだ。しかしここではキッカーの技術そのものよりも、それを引き出す要因となったものを注視したい。つまり、エリア内での選手の動き方だ。
まずは、マリオ・パザリッチが奪った同点ゴールのシーンから振り返りたい。右のCKに際し、ペナルティエリア内で待ち構えるミランの選手は4人。クロトーネはそれに一人ずつマンマークをつけた上で、3人をゴールエリア内に配置してゾーンディフェンスを取らせた。するとミランの選手は、スソのキックの寸前で中央のスペースを捻出する動きを行なった。
ガブリエル・パレッタとアレッシオ・ロマニョーリはニアに行き、パレッタに至ってはさらに外へと膨れる。スソのボールはニアへと寄り、ゴール前でゾーンを組んでいたクロトーネの選手はいっぺんにニアへと釣り出される。そしてパレッタがヘッドでボールの軌道を反らすと、マークが乱れて空いたスペースにはパザリッチが詰めており、ヘディングシュートが決まった。
決勝ゴールとなった2点目のFKもしかりだ。ペナルティエリア内で走りこむのは4人。そのうち2人はファーへと直線的に詰めて相手ディフェンスを釣る一方、ニアに構えていたルイス・アドリアーノは一旦引いてマーカーの注意を引きつけ、中央にいたラパドゥーラはゴールに詰めた上でバックステップでマークを外しフリーになっている。つまりこの場合ミランが開けたかったのはエリア内の中央で、ラインを張っていたクロトーネの守備陣は意図通りに乱れた。
そこに、途中出場を果たした本田圭佑の蹴ったボールがスピードに乗って落ちてくる。ラパドゥーラの頭には当たらなかったものの、相手選手がクリアミスをし、ゴールへと繋がる。その混乱は意図的に作り出されたものだとも言えるだろう。とにかくこの2つのセットプレーは、綿密な作戦上の指示によって行われたものだということが見える。
実は今季、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督は長年信頼したセットプレーの専門家をスタッフに呼んでいる。カターニアで助監督などを務めていたピーノ・イッレーラという人物だが、手腕に心服したモンテッラはセットプレーの指導も一任し、自身がフィオレンティーナに移っても彼を呼び寄せた。そして今のミランでも、セットプレーは確かな得点源となっている。つまり彼らの今季の勝負強さは、練習を通して確かな武器を培っていることも一因であるということだ。