「ああ、イイちゃんね。ガンダム飯田」
松本山雅FCの練習拠点、美ケ原温泉の一角にあるかりがねサッカー場。9月下旬、初めてここを訪れた私は、カメラを首からぶら下げ、周辺を歩き回っていた。
静かな場所だ。遠くに望むのは北アルプスの山々。野鳥の鳴き声が辺りに響く。
メディア用のビブスを着ていたせいだろう。おっちゃんに呼び止められた。「どなたですか?」と。私は、飯田真輝に話を聞きに来たのだと話した。
「ああ、イイちゃんね。ガンダム飯田」
おっちゃんは満足そうに言って、立ち去った。いまのはなんだったんだろう。あちこちのクラブの練習場に出入りしてきたが、そんなふうに話しかけられるのは初めてだった。
がっしりした体つきに由来する、ガンダムの愛称。どうやらそれは松本山雅でも健在らしい。飯田にインタビューした際、私はその話を持ち出した。
「たぶん、あの人だな。ふだん見ない顔がいると、すぐに話しかける。どうもね、相手のことを確認したいみたいで。悪気は全然ないんですよ」
飯田は可笑しそうに話した。ただそれだけのことなのだが、飯田と松本山雅の関係性、ここで築き上げてきたもの、サポーターとの距離感が伝わってきた。
2010シーズンの途中、飯田は東京ヴェルディから松本に移籍した。敢えて言う。都落ち同然だった。その頃から松本山雅はやたらとアツいサポーターに支えられるクラブと一部で知られていたが、当時は地域リーグからJFLに昇格したばかり。ぽっと出にも満たない、ただし豊かな可能性を示すクラブのひとつに過ぎなかった。