「今日の想いというものをいつまでも忘れずに」(小林伸二監督)
年間42試合を戦う長丁場のJ2へ、シーズン開幕前に小林監督はこんな青写真を描いていた。まず負けないために失点を試合数以下、得点を試合数の1.5倍から2倍の数字に求め、その結果として試合数の倍の勝ち点を得られれば自動昇格できる、と。
果たして、結果は37失点、85得点、そして勝ち点84とすべて達成させたうえで、最大の目標を成就させたことになる。シーズン終盤に右肩上がりに転じる軌跡は過去に昇格させた3つのチームよりも、J1で優勝争いを演じた2005シーズンのセレッソ時代をほうふつとさせる。
当時も開幕3連敗と出遅れながら尻上がりに調子をあげ、後半戦は当時のJ1記録となる16戦連続無敗をマーク。残り1節の時点でガンバ大阪を抜いて首位に立った。ブルーノ・クアドロスを中心とする最終ラインの堅守と、森島寛晃、西澤明訓を中心とする攻撃力がかみ合った構図は、カテゴリーこそ違うものの、今シーズンのエスパルスとダブる。
2005シーズンはFC東京をホームに迎えた最終節の後半アディショナルタイムに同点とされ、勝てば優勝という状況から5位に引きずり落とされる悪夢を味わわされた。我慢強く、地道にチームを作り上げていく、いぶし銀の渋さを漂わせる名将は2014シーズン以来となるJ1へどのような青写真を描くのか。
「今日の想いというものをいつまでも忘れずに、J1から落ちることのないように、しっかりと準備をしていければ。今日の試合を見てもわかるように、チーム全体が若いのでどうしてもバタついてしまう部分もありますけど、それも彼らにはいい経験になったと思うので。技術と試合状況を見ながら判断していく力を、もっと磨かいていかないといけないですね」
同時間帯に行われていた松本山雅の試合展開を、小林監督は特に後半に入ってスタッフから逐次報告させていた。最後はともにリードを奪い、あとは何がなんでも勝つしかないと指揮官が腹をくくった数分後に鳴り響いた歓喜のホイッスルは、新たな戦いの幕開けを告げる合図もであった。
(取材・文:藤江直人)
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