エスパルス再建を託されたJ1昇格請負人
オレンジ色に染まった敵地・ポカリスエットスタジアムのゴール裏から、何度も名前を連呼された。
「コバヤシ、シミズ! コバヤシ、シミズ!」
20日のJ2最終節を終えた直後のひとコマ。徳島ヴォルティスを2‐1で振り切り、公約通りに1年でのJ1復帰を決めた清水エスパルスの小林伸二監督へ、瀬戸内海を越えて駆けつけた4000人を超えるファンやサポーターが感謝の思いをエールに込めている。
昨シーズンまで4年間指揮した古巣との対決を制した56歳の指揮官は、選手たちから美酒の代わりに浴びせられたミネラルウォーターでずぶ濡れになりながら、感無量の表情を浮かべていた。
「こんなに多く応援に来てもらって、サポーターには本当に感謝しています。同点に追いつかれた後は普通だったら難しいと思うんですけど、あの大声援が選手を押してくれた。私の声は(選手たちに)届きませんけど、サポーターの声はしっかりと聞こえているので」
J1昇格請負人の肩書とともに、昨シーズンのJ1で年間17位に終わり、クラブ史上で初めてJ2降格を喫したエスパルスの再建を託された。2002シーズンの大分トリニータ、2008シーズンのモンテディオ山形、そして2013シーズンのヴォルティス。これまでJ1へ導いてきたクラブの立ち位置と、エスパルスのそれは根本的に異なるものだった。
過去の3クラブは、いずれも小林監督のもとでJ1へ初めて昇格を果たしていた。翻って日本有数のサッカーどころで産声をあげ、1993シーズンのJリーグ元年を戦った「オリジナル10」のひとつでもある名門・エスパルスの場合は、J1へ「戻す」だった。
しかも、これまでのJリーグの歴史を振り返ってみれば、1年でJ1復帰を果たさなければ、返り咲く確率が一気に下がってしまう。エースストライカーの鄭大世をして「崩壊している」と言わしめた昨シーズンまでのエスパルスを、いかにまとめあげて、なおかつ本来備わっていた力を発揮させるか。根気と時間を要するタスクのテーマを、指揮官はこう定めている。
「個人をグループに、組織にする」