町田が入念に積んできた松本山雅対策
ゼルビアのシュートがゴールバーに弾かれること2度。クラブ史上で初めて日本代表候補に選出された、守護神シュミット・ダニエルのファインセーブでしのいだ一撃もあった。高崎をして「よく2失点で収まったと思う」と言わしめた前半のパフォーマンスは、今シーズンでワーストだったといっていい。
松本山雅の生命線は、前線からの連動したプレス。攻守を素早く、絶え間なく、時間の経過とともに相手が辟易するほど激しく切り替えるために開幕前のキャンプから徹底して走り込み、他チームを凌駕するスタミナを搭載させてきた。しかし、ゼルビア戦に限っては、最後尾から見える光景がいつもとはまったく異なったとシュミットは振り返る。
「今日は町田さんにそれを上手くやられた。ウチが違ったというよりは、あくまでも僕のイメージですけど、最近戦ったチームのなかで町田さんみたいに攻守の切り替えが速く、球際でガツガツくるのは少なかったというか、本当に久々だったので、そういう部分で特に前半は戸惑いが出ていたと思う」
クラブ史上初の年間総入場者数10万人と、1試合平均5000人をホーム最終戦で達成したゼルビアのモチベーションも高かった。キックオフ前の時点で7位をキープ。背中を追うファジアーノの結果次第では、最終戦で6位に滑り込む逆転劇も可能になる。実際、ファジアーノが負けたことで、勝ち点差は2に縮まった。
スタジアムの客席数不足や練習施設の問題もあり、来シーズンのJ1ライセンス取得申請を断念していたゼルビアは、6位に食い込んでもJ1昇格プレーオフには出場できない。それでも、クラブ史上で最高の実績を残すことで地元を巻き込んだ世論を形成し、腰の重い行政を突き動かすことができる。
開幕からハードワークを身上として戦い、上位に食らいついてきた相馬直樹監督は、3バックを敷く松本山雅への対策も入念に積んできた。3バックの間に生じるギャップへ、ボランチの森村昂太らを積極的に斜めの位置から走り込ませ、最終ラインの裏で起点を作らせては徹底してサイドから攻めさせた。
結果として松本山雅は最終ラインを高く上げられず、前線との距離が間延びしてしまう。ボールを奪ったとしても近くに味方がいない。攻撃の起点も作れない。セカンドボールも拾えない。それでもクロスを中央ではね返せば問題はなかったが、後手を踏み続けた最終ラインの混乱ぶりが修正されることはなかった。