「レンタル移籍にしたってあり得ない」
そして何より、清武本人には現状を打破する意思がある。彼は通訳をつけず、スペイン語をその身に浴びながら自分の物にしようと努めており(クラブはスペイン語の個人授業を受けさせている)、そしてチームに溶け込もうと奮闘している。チームをまとめるキャプテン、ビセンテ・イボラに話を聞くと、清武のそういった姿勢に感銘を受けている様子だった。
「とても落ち着いているが、親しみが持てる奴だよ。皆と仲良くやっているし、スペイン語を話そうと努力していることも伝わってくる」
「ここでは、こんな状況ならダメだ。ならば次の場所へ」と考えるのは簡単だ。しかし清武は自身のいる場所、置かれている立場を受け入れ、自らの向上によって成功を勝ち取ろうとしている。
冬の移籍市場が開くまで、あと1ヶ月半。セビージャがストライカー、センターバックを一人ずつ獲得する方針を固めているのは事実だが、報道されているように清武を放出する考えはない。先の強化部門の関係者は、「キヨを売却する……。そんなプランは存在しない。レンタル移籍にしたってあり得ないよ。彼とは4年契約を結んだが、その契約は半年間の良し悪しだけに影響されるものではない」と語気鋭く言い放った。
この関係者の言葉は、世界共通の言語であるフットボールを清武がいかに雄弁に話せるかという理解と、今後にそれを示せるであろうという期待から発せられたものだ。闘牛士が闘牛にとどめを刺すときのことを、“La hora de la verdad(真実の瞬間)”と言う。清武が闘牛の本場アンダルシアで、その刹那を迎えるのは、まだ先のことである。
(取材・文:ロシオ・ゲバラ【セビージャ/マルカ】、翻訳・編集:江間慎一郎【マドリード】)
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