ヴェルディ時代はサッカーを楽しめなかった
――私がやたらと記憶に濃いのは、そのシーズンの横浜FC戦ですね。三ツ沢球技場でした。飯田選手が久しぶりに起用されることになり、友だちのヴェルディサポーターと賭けをしたんです。ごはん代か、タバコ一箱だったかな。一方は「あいつはやってくれるぞ」と主張し、もう一方は「ガチガチに緊張して、やらかすに決まっている」と。
「やらかしましたね」
――そうなんですよ。わりとアバウトな設定だったので決着がつかない可能性もあったんですが、きれいに白黒ついちゃって私は奢らされるはめに。
「憶えてます。コーナー付近で、大学の先輩である難波(宏明)さんに駆け引きで負け、ボールロスト、いやファールしたのかな。その流れで失点し、パニックになって2失点目にも関与したような気がしますね。結果、試合も負けてしまいました。あのシーズンで忘れられないのは愛媛FCとのゲーム。自分たちがリードし、終盤に差しかかったところで相手がパワープレーに出てきたんですよ。そこで、僕は下げられたんです」
――相手がどんどん放り込んできているのに?
「自分の出来が良かったかどうかはわからないですけど、受け入れがたい気持ちがありました。勝ってて自分が代えられる。どういうこと? なんでだろうと。まあ、信頼がその程度だったんですね。結局、その試合は勝ったから間違いではなかったとも言えますし」
――そういった経験を経て、いまにつながるんでしょうね。先ほど練習の様子を見ていて、こんな楽しそうにプレーする人だったんだと初めて気づかされました。
「もともと、僕はいまみたいにサッカーをしたいと思ってました。昔のヴェルディの選手は、みんな楽しそうにプレーしていたじゃないですか。でも、あの頃の自分のレベルでは残念ながら無理だったんですよ。周りのレベルが高すぎて楽しめなかった」
――ライバルが土屋選手や那須選手では、いかにも分が悪い。
「バウルさんなんて、練習はキャッキャ言いながらやっているのに、すごいプレーを連発するんです。いざ試合となると、闘うスイッチがバシッと入る。僕はずっとそれを目指してきました。最近になって、ようやく少しは近づけているかなと感じているところですね」