脳裏をよぎった「あの悪夢」
悪夢が脳裏をよぎる。勝者と敗者を残酷なまでに、天国と地獄にたとえられるほど鮮明に分け隔てるPK戦。ともに4人ずつが蹴り終え、最後の5人目のキッカーとして臨もうとしていたU-19日本代表のFW小川航基(ジュビロ磐田)は、苦い記憶を蘇らせていた。
「自分があそこで出てきて(PKを)蹴るというのは、みんなも『外しそうだ』と思っていたらしくて。自分もさすがに頭の片隅にはありましたけど」
今年1月3日に行われた全国高校サッカー選手権大会3回戦。桐光学園(神奈川県代表)のエースとして臨んでいた小川は、2‐2のままもつれ込んだ青森山田(青森県代表)とのPK戦で5番手を担った。
2試合連続の2ゴールをあげていた小川だったが、決めればハットトリックとなる後半10分のPKをゴールバーの上に外していた。そして、後半アディショナルタイムにまさかの2ゴールを喫する。
ムードと勢いが完全に逆転してしまった状況で、味方は何とか4人全員が成功させて小川に勝利を託す。しかし、ゴール左隅を狙った一撃はGK廣末陸が必死に伸ばした右手に弾かれてしまう。
失敗した瞬間に頭を抱え、うなだれた小川は青森山田の5人目が成功させた直後から人目をはばかることなく号泣。仲間に抱き着かなければ立っていられない姿は、見ていて痛々しいほどだった。
夢半ばで高校サッカーを終えてから約10ヶ月。プロとして歩んできた日々の積み重ねをサッカーの神様に試されているかのように、延長戦を含めた120分間でも0‐0のまま決着がつかなかったU-19サウジアラビア代表との死闘にけりをつけるPK戦で、小川は内山篤監督から5番手を命じられる。
しかし、いまも忘れられない「あのとき」とは状況が違う。舞台は高校サッカー選手権から19歳以下のアジア王者を決める、AFC・U-19アジア選手権の決勝へ。場所もニッパツ三ツ沢球技場から、中東バーレーンの首都マナマにあるバーレーン・ナショナルスタジアムへと変わっていた。