ルーキーながら決勝でPKキッカーを志願
「止めたー! 西川止めました!」
TV中継の実況アナウンサーが絶叫した直後、ピッチの上で天を仰ぐ青年がいた。呉屋大翔。今季からガンバ大阪でプレーするストライカーだった。
今月15日に行われたJリーグ YBCルヴァンカップ決勝のPK戦、少しのミスも許されない場面でルーキーは自らキッカーに志願した。だがこの試合でただ1人、失敗した。チームは2年連続準優勝に終わり、タイトル獲得を逃した。
「泣きたくはなかった。僕よりも悔しい思いをしている人がいると思うし、泣くのではなく悔しさを噛み締めて次につなげたかった。まだ気持ちの整理はできていないですけど、この経験を無駄にしてはいけない。くよくよしても意味はない。必ず這い上がります。ゴール、タイトルという形で借りを返したい」
PKを失敗した後の呉屋が発した言葉の端々から悔しさが溢れ出る。自分に対する憤り、とでも言おうか。表情は暗かったが、その内側にはメラメラと燃える闘志が垣間見えた。
呉屋のキャリアは挫折の歴史であり、その度に高い壁を超えてきた。目の前の崖をよじ登り、てっぺんに着いたと思ったら、また目の前に自分の後ろにあるものよりもさらに厳しい崖がある。そんな人生だ。
中学時代はヴィッセル神戸のジュニアユースに所属していたが、ユースに昇格できず、親元を離れて流通経済大学付属柏高校に進学する。高校時代の同期には世代別代表経験のある宮本拓弥(現水戸ホーリーホック)や古波津辰希(現栃木SC)をはじめ、田上大地、中村慶太(ともに現V・ファーレン長崎)、湯澤聖人(現柏レイソル)といった錚々たるメンバーが揃っていた。
その中で呉屋は主力に定着しきれない、目立たない存在だった。2年生までは全く公式戦に出場できず、3年生になっても夏のインターハイで11番を背負ったが印象的な活躍を見せたわけではない。冬の選手権予選では大会を通して1分も出番がなかった。流経大柏は千葉県大会決勝で市立船橋高校に敗れて2年連続の全国選手権行きを逃している。