「足がグンと伸びるんですよ」(金井)
では、どうやったら止められるのか。日頃から練習で齋藤のドリブルに対峙している金井貢史にこの問いをぶつけてみた。彼は横浜FMの下部組織で齋藤の一つ上の学年にあたり、少年時代からその破壊力を知る身でもある。
「ドリブルしていて顔も上がっているし、相手を見ながらやっているから、体重移動とかでも相手の重心がちょっとずれた瞬間に抜ける」
金井は後輩のドリブル中の姿勢を強みに挙げた。ボールを足もとに置くと、どうしてもそればかりに注意がいき周りが見えなくなりがちだが、齋藤は視線を上に向けながらも完璧にプレーできる力を身につけている。
Jリーグで猛威を振るう突破力をいかにして消すか。金井の答えはこうだ。
「まずは(齋藤に)パスを入れさせない。あとは早めにサポートに来てもらって、1対1で勝てなかったら2対1で勝つ。誘い込む感じですね。前へ向かれてスピードを上げられるとキツいので、前を向かせないのが一番だと思います」
もはやお手上げ状態である。1人では止められないから2人で、そもそもボールを持たれるのが危険だから齋藤にパスが渡る前に処理する。「足がグンと伸びるんですよ。ディフェンスとしては足を出すタイミングがなくなる。(足を出すと)ファウルだし、たぶん置いていかれます。ついていかなければいけないけど、ついていけない」と金井は話す。チームメイトも恐れる突破力、対戦相手が抱く恐怖は察するに余りある。
いまJリーグに個人の力で完璧に齋藤を抑え込めるDFはいない。本人は22日のG大阪戦の後「今日はあまり良くなかったかな。取られる回数は今年で一番多かった」と自身の出来を悔やんだが、それでもシュート数は両チーム最多の4本で、積極的な守備からゴールも奪った。
「代表というよりも、まずマリノスで結果を残して経験を積まなくてはいけない」と、齋藤は個人として結果が出ていても一切満足していない。貪欲に前だけを向く“ハマのメッシ”は自慢の突破力でJリーグと日本代表の未来を先頭に立って切り開く。
(取材・文:舩木渉)
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