ただ速い、上手いだけではない
さらに藤本は齋藤の体の変化にも気づいていた。
「体が少し締まった感じがする」とその印象を語る。そして齋藤の現チームメイトである喜田拓也の証言が藤本の言葉を裏付ける。
「試合の終盤になっても落ちない体力というのは間違いなく武器だと思うし、相手が疲れてきている中でああやって違いを出せるというのは学くん自身の強みだと思う」
自分の力を最大限チームに還元するために何をするか。ピッチ外での自己管理がピッチ内でのプレーに好影響を及ぼしているようだ。その証拠に先発出場して途中交代という試合の数は年々減っている。
愛媛FCから横浜FMに復帰した2012年は25試合に先発し、そのうち10試合は途中でベンチに下がっている。2013年は23試合先発8試合途中交代、2014年は9試合に増えたが、同時に先発出場も25試合に増えていた。そして2015年は31試合に先発して4試合、今年にいたってはすでに30試合に先発して途中交代は3試合のみだ。
主に左サイドハーフでプレーする齋藤のタフさは出場時間の増加だけでなく、ドリブルの破壊力につながっていた。徐々に足が動かなくなる終盤にスピードと技術を駆使した突破を止めるのは容易いことではない。
「サッカーに対する姿勢はすごい。プレーの中でいろいろ考えていますし、自分のドリブルがどうすれば生きるのかという術を知っていると思う。単純にスピードがある、パワーがある、技術がある選手はたくさんいるんでしょうけど、そういうところで差を出せるのが学くんの力だと思う」と喜田が語る通りだった。
同じドリブラーの目線で見た齋藤はどんな選手なのか。横浜FMでチームメイトのマルティノスに聞いた。
「彼の場合はすごくスピードがある中で、リズムを変える、個人で相手を抜く、味方を使う、クロスを上げるといった、緩急がある。ゲームを変えられるいい選手だと思う」
ここでも藤本と同じような点に触れていた。「緩急」、つまりスピードの変化を利用した突破が得意ということだ。齋藤のドリブルの魅力はただ速い、上手いだけでなく、変幻自在な足運びと周囲の状況を的確に捉える判断力にあった。