速いけれども雑な攻撃
「(縦に速い攻撃をするのは)チームとして決めていました。ただ、後方からのパスが多くなってしまった」(柏木陽介)
日本のアタッカーにはスピードがある。あまり長い距離になるとフィジカルコンタクトが避けられないので有利とはいえないが、20~30メートルのスプリントは速い。相手のディフェンスラインが下がりきる前に仕掛けるのは理にかなっている。これは以前ザッケローニ監督も再三指摘していたとおりである。
ただし、それほど空いているわけでもないライン裏をDFからのロングパスで狙っても成功率は低い。前線に近い場所にパスを入れてポイントを作れれば相手は背走するので、それならば日本のスプリント能力は生きる。一発で裏を狙うにしても、中盤からならともかく最後尾からではパスの距離が長すぎて精度は落ちてしまう。
吉田麻也が再三狙い、普段はそうしない柏木までもが一発狙い。ほとんどは相手にカットされた。縦に速い攻撃は、たんなる雑で大味な攻撃になってしまっていた。連係は見られず、個人技からのクロスボールか単純な縦パス。
清武弘嗣を軸とした見事なカウンターアタックからの先制点を除けば、日本らしいパスワークはあまり見られなかった。イラクの前線からのプレッシャーは厳しかったとはいえ、以前の日本ならそれを外して組み立てられた。今回はそれもなかった。
ロスタイムには吉田を前線に上げてハイクロス攻撃、これは効果的だった。吉田の粘りで得たFK、そのこぼれ球が決勝ゴールを生んでいる。
予選は結果がすべてだ。通過してしまえば、この酷い内容の試合も「劇的な勝利」として思い出されるだけだろう。弱点克服に意欲的に取り組んでいるのはわかった。イラク以上に空中戦とデュエルに強い、オーストラリアと戦うための準備にもなった。しかし、次は日本の長所をしっかり出さなければ勝てる相手ではない。
(取材・文:西部謙司)
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